なぜLACOSTEは、ワニを消したのか?

· サステナブル,ファッション,デザイン

今回のタイトルは一見サスティナブルとは関係ないが、非常にサスティナブルやESGを連想させる面白いキャンペーンである。

まずはこれを見てほしい。

これが今回取り上げるラコステが2018年にやったキャンペーンだ。

なぜLACOSTEは、ワニを消したのか?

胸元に、小さな緑色のワニ。

ブランド名を見なくても、それだけでLACOSTEだとわかる。

ファッションブランドにとって、ロゴは単なるマークではない。
それは長い時間をかけて蓄積された「ブランドそのもの」に近い。

だから普通の企業なら、ロゴはできるだけ大切に扱う。

変えない。
消さない。
そして何より、他のものにその場所を譲ったりしない。

ところが2018年、LACOSTEはその逆をやった。

ワニを消した。

そして、いつもワニがいるはずの胸元に、絶滅の危機に瀕した10種類の動物を置いた。

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なぜLACOSTEは、自分たちにとって最も重要なブランド資産を消したのだろうか。

そこには、サステナビリティ広告だけではなく、ブランドとデザインについての非常に面白い考え方が隠れている。

ワニは、ただのロゴではなかった

そもそもLACOSTEのワニは、どこから生まれたのだろう。

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ブランド創業者のルネ・ラコステは、1920年代を代表するフランスのテニスプレイヤーだった。

彼は粘り強いプレースタイルなどから、アメリカのジャーナリストたちに「クロコダイル」と呼ばれるようになる。

そのニックネームがやがて服に刺繍され、1930年代に誕生したLACOSTEを象徴するマークとなった。

つまりワニは、最初から単なる装飾ではない。

粘り強さ。強さ。スポーツマンシップ。

ルネ・ラコステ本人の物語を、小さな動物のマークへ圧縮したものだった。

その結果、何十年もの時間をかけて、ワニはLACOSTEという名前以上にLACOSTEを語る存在になっていく。

だからこそ2018年のキャンペーンは異様だった。

LACOSTEは、もっとも価値のある場所から、そのワニを退場させたのである。

「絶滅危惧種を守ろう」と言わなかった。

2018年のパリ・ファッションウィーク

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LACOSTEはIUCN(国際自然保護連合)の「Save Our Species」と協力し、10種類の絶滅危惧種を刺繍した限定ポロシャツを発表した。

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スマトラトラ。

ジャワサイ。

カカポ。

カリフォルニアコンドル。

そして、世界にわずか数十頭しか残っていなかったコガシラネズミイルカなど。

重要なのは、単にロゴを動物へ変更したことだけではない。

生産されたシャツの枚数そのものが、それぞれの動物の推定生息数と対応していた。

たとえば、ある動物が世界に67頭しか残っていないなら、そのポロシャツも67枚しか作らない。

2018年に作られたポロシャツは、合計わずか1,775枚だった。

ここが、このキャンペーンの非常に優れたところだ。

普通なら、

「絶滅危惧種が減っています」

というメッセージを広告にする。

あるいはグラフを見せる。

数字を出す。

専門家に解説してもらう。

しかしLACOSTEは、その数字を商品そのものに変えてしまった。

67という数字を読む代わりに、

「このシャツは67枚しか存在しない」

と体験させる。

統計だった数字が、希少性になる。

そして希少性だったものが、

「この動物も、本当にこれだけしかいない」

という実感へ変わる。

データを説明するのではなく、デザインとして体験させたのである。

なぜ「ワニを消す」必要があったのか

ここでもう一度考えてみたい。

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絶滅危惧種を刺繍するだけなら、ワニの隣に動物を追加してもよかったはずだ。

袖でもいい。

背中でもいい。

特別なタグを付けてもいい。

しかし、それではこのキャンペーンは成立しない。

なぜなら、この広告でもっとも強いメッセージは、

「動物がいること」ではなく、「ワニがいないこと」

だからだ。

私たちはLACOSTEのポロシャツを見ると、無意識に胸元のワニを探してしまう。

ところが、そこにワニがいない。

代わりに見慣れない動物がいる。

その小さな違和感が、見る人を立ち止まらせる。

「なぜワニがいないのだろう?」

この疑問が生まれた瞬間、広告は成功している。

つまりLACOSTEは、新しいメッセージを追加したのではない。

誰もが知っているものを取り除くことで、メッセージを作った。

デザインでは、何を加えるか以上に、何を消すかが意味を持つことがある。

ブランドは「主張する」だけでなく「譲る」ことができる

このキャンペーンには、もうひとつ面白い逆転がある。

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LACOSTEのワニは、もともと「強さ」を象徴していた。

粘り強く戦うスポーツ選手。

簡単には離さないクロコダイル。

しかしSave Our Speciesでは、その強い動物が、自分より弱い存在のために場所を譲った。

ブランドにとってもっとも目立つ胸元という場所を、

「LACOSTEを見てください」

ではなく、

「この動物を見てください」

のために使ったのである。

それでも、不思議なことにLACOSTEというブランドの存在感は弱くならない。

むしろ強くなる。

これはブランドについての少し面白い矛盾である。

強いブランドほど、いつも自分について話す必要がない。

Appleのリンゴ。

Nikeのスウッシュ。

CHANELのダブルC。

それらと同じように、LACOSTEのワニも、長い時間をかけて人々の記憶の中へ定着している。

だからこそ、

「なくなったこと」すらブランド表現になる。

ワニがいないのに、LACOSTEだとわかる。

これは、ブランドが極めて強くなければできない表現でもある。

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環境問題のコミュニケーションは、ときどき難しくなりすぎる

CO2排出量。

Scope 1、2、3。

LCA。

カーボンクレジット。

生物多様性。

追加性。

もちろん、どれも重要な概念だ。

しかし生活者にとって、それらを理解するには少し勉強が必要になる。

そこで企業はさらに詳しく説明しようとする。

レポートを作り、

グラフを作り、

専門用語を説明する。

けれどLACOSTEは、逆の方向へ進んだ。

生活者に環境問題の言葉を覚えてもらうのではなく、

環境問題を、生活者がすでに知っているLACOSTEの言葉へ翻訳した。

「生物多様性とは何か」を理解していなくてもいい。

ワニがいなくなったことには気づく。

そして、

「この動物は、いなくなるかもしれない」

ということなら直感的に理解できる。

キャンペーンは24時間以内に完売し、SNSで大きく拡散された。IUCNによれば関連コンテンツは約60万回共有され、Save Our Speciesのウェブサイトへのアクセスも急増したという。

難しい問題を、難しく伝える必要はない。

むしろ難しい問題だからこそ、

一瞬で理解できる「入口」が必要なのかもしれない。

良いサステナビリティ広告は、サステナビリティ広告に見えない

ファッションブランドなら、ファッションで語る

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食品会社なら、食べ物で語る。

建築会社なら、建築で語る。

そしてLACOSTEなら、ワニで語る。

サステナビリティに取り組む企業が最初に考えるべき質問は、

「どうすれば私たちが環境に配慮していると伝えられるか?」

ではないのかもしれない。

それよりも、

「私たちがすでに持っている文化や商品、象徴を使えば、環境問題はどんな姿に見えるだろう?」

と考える。

LACOSTEの場合、その答えはずっと目の前にあった。

胸元にいる、小さなワニだ。

だから彼らがしたことは、新しいシンボルを作ることではなかった。

もっと大胆で、もっとシンプルだった。

ワニに、一度だけ場所を譲ってもらった。

そしてその瞬間、ワニは「強さの象徴」から、

弱いものを守ることのできる強さの象徴へ変わった。

ブランドとは、ロゴを何度も見せることで作られるものだと思われがちだ。

けれど、本当に強いブランドなら。

時には、そのロゴを消すことさえ、

ブランドになる。

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