フェルメールが描いた謎の人物「真珠の耳飾りの少女」は何を見つめる?人々を魅了する瞳の先

· アート
Section image

今季最も話題の美術展が開幕した。8月21日から大阪中之島美術館ではじまった「フェルメール 真珠の耳飾りの少女展」は、事前チケットも大争奪戦で、当選の歓喜・落選の嘆きがThreadsをはじめ、SNSなどで溢れかえっていた。


Section image

フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が来日するのは、2012年「マウリッツハイス美術館展」(東京都美術館、神戸市立博物館)以来14年ぶり。今回はたった1か月しか展示されない上、日本での展示が最後となる可能性が高いため、「今見ておかなきゃ!」という人が多かったのだろうと思う。


また本展は、プロモーションに注力しているのも話題のひとつで、アニメ「葬送のフリーレン」とのコラボレーションや、人気キャラクター・ミッフィーとのタイアップなど、この展示でしか入手できないオリジナルグッズや広告にも注目が集まっている。


今回は、偶然にもチケット争奪戦に勝利した筆者が初日に鑑賞に行ってきたので、レポートとしてまとめたい。ちなみに、グッズ売り場は展示室以上の大混雑で、レジに並ぶだけでも3時間以上の列ができていたので、グッズ購入を断念したことを先にお伝えしておく。

フェルメール 43年の半生と35点の作品

これだけ話題となっている本展だが、読者の皆さんはフェルメールという作家をどれだけ知っているだろうか?

ヨハネス・フェルメールは1632年に生まれたオランダの画家で、17世紀オランダ絵画の黄金期を代表する作家のひとり。(1675年12月没)しかし、たった43年という短い半生で、確認されている作品数はわずか35点(もしくは37点)と少ない。画業約20〜22年の中で、聖書や神話に基づく歴史画や室内風俗画を中心に描いた。


作家は、一つの作品に長い時間を費やすような遅筆だったため、完成された作品が少ないとされている。有名なのは今回出展された「真珠の耳飾りの少女」のほか、「牛乳を注ぐ女」、「手紙を読む青衣の女」だろうか。


”フェルメール・ブルー”と称される天然のウルトラマリンという当時では金以上の価値がある非常に高価な顔料を使用した作品が目立つ。ちなみに「真珠の耳飾りの少女」はかつて「青いターバンの少女」とも呼ばれ、所蔵されているマウリッツハイス美術館では”北のモナ・リザ”とも称されている。


フェルメールが人気なのはなぜだろうか?一般的に言われているのが、以下の3つだ。


  • 高い技術力による描写性:『光の魔術師』とも呼ばれる”柔らかな光”の表現や質感のリアルさ、描き込まれているその緻密さ
  • 圧倒的な希少性:現存する作品数が少ないため、レア感が高く、ファンを渇望させている。
  • 作品のミステリー性:作品に描かれているモデルや物語の背景などの情報があまり残されておらず、謎に包まれているため、観る人の想像を膨らませる。

なるほど、たしかに作品を観ると細かく描き込まれているのが分かる。吸い込まれるような瞳の輝きや当時の人々の日常をカメラで捉えたかのような魅力がある。ただ、これはフェルメールの表現技法による計算とも言える。

「真珠の耳飾りの少女」でみるフェルメールの表現技法

Section image

光の表現はフェルメールの確定演

出

フェルメールの技法において第一に言われるのは『光』の表現だろう。瞳や真珠、唇、肌、背景にも散りばめられているこの光の正体は、ポワンティエ(フランス語:pointillé)という光の粒。絵画において光の反射やハイライトの部分を小さな白い点描で表現する方法だ。ポワンティエが取り入れられることで、作品に輝きや立体感が生まれる。


光があることで、ある意味生々しく、その作品の物語にスムーズに没入できるのだろう。このリアル感の演出が、作家が『光の魔術師』と呼ばれる所以である。

少女にはモデルがいない…謎を呼ぶトロニ

ー

「真珠の耳飾りの少女」がこんなにも多くの人を魅了する理由とはなんだろうか?これは絶妙な構図、もしくは配置バランスだろう。

ぱっちりとした瞳に吸い込まれ、艶やかな唇に目線を落とせばドキリと意を突かれる。大ぶりの真珠に目をやれば、その精密さに驚く。顔全体に目線を戻すとまた、その神がかったバランスに感心してしまうのである。私たちがこの美しい顔を無視できない理由がそこにある。


実はこの美しい少女のモデルは特定されていない。当時の肖像画は、貴族などから発注を受け、その注文に合わせて描くのが一般的だった。しかし、本作はトロニーと言われる架空のじんぶつや表情、性格を描いた習作であるというのが現時点での有力な定説。


つまり、この少女は貴族の令嬢でもなければ、農民の娘というわけでもない。身分も地位も持たない、フェルメールの理想像だった可能性が高い。


筆者としては、髪をターバンに隠していることも謎を引き寄せている要因のひとつだと思う。髪の色を特定しないことで、民族性をも隠し、どこの誰かが分からない印象を植え付けることで考察が捗るのだ。

細密さによる再現性とメッセージとしての寓意

性

真珠の大きさについても触れておきたい。この少女が身につけている真珠は少し大ぶりな印象ではないだろうか?

真珠のサイズは直径約16㎜と非常に大きく、耳に付けると耳たぶが引っ張られるほど重そうだ。当時の価値で見ても、この大きさは一般階級の少女が身につけられるような代物ではない。そのため、ガラスや錫などで作った疑似珠なのではないだろうか、という見解が美術界では有力だ。

そこで考えられるのが真珠からみる寓意だ。寓意とは意味や概念を直接的に表現するのではなく、別の具体的なモノなどに託して、ほのめかす表現方法のことをいう。神話を描いた作品などに多く見られる。


少女の真珠もなにかの寓意なのだろうか?真珠は純潔・知性・愛のモチーフとされる。まっさらで清らか、それでいて聡明、慈愛に溢れた母性が作家が思い描く理想像だったのかもしれない。



本展では、「真珠の耳飾りの少女」(1665年頃)のほかに「ディアナとニンフたち」(1653年~1654年頃)も展示されている。本展に当日券はないため、事前チケットを手に入れた人のみが鑑賞できるが、あの美しさを直接見れたのは、筆者にとって大きな経験だった。

Section image


展覧会名:フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日

会期:2026年8月21日(金)~9月27日(日)



ライター:石倉佳奈

広告代理店で6年間営業マンとして勤務した後、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在はSEOライティングやインタビューライティング、イベントディレクターなどさまざまな仕事を請け負うフリーランスライターとして活動中。日本全国の美術館と博物館を制覇すること、ヒマラヤマーモットを飼うことが今の夢。