アメリカンガールとアフガニスタンボーイの往復書簡〜『はるかなるアフガニスタン』

· 教養

 かの9.11同時多発テロ事件が起きたとき、ちょうど浪人生だった私は「今年はきっとイスラム関連がモリモリ出題されるはず」と、イスラム教やアフガニスタン、そして中東あたりをかなり慌ててたっぷりと勉強した覚えがあります(それは今でも国際ニュースを読み解くときに、時折役に立ちます)


 それからかなり経ったある年、書店に並んでいた夏休みの読書感想文の課題図書の中に『はるかなるアフガニスタン』という一冊があるのを見つけて、なんとなく手に取ってみたのです。

 著者はアメリカの児童文学作家、アンドリュー・クレメンツ。原題は『Extra credit(課外授業)』。


 アメリカのイリノイ州に住まう、いかにもアメリカンガール! みたいな女の子と文通することになったアフガニスタンの男の子の話です。


 趣味がクライミングのアメリカの少女アビーは勉強をサボっていたため落第寸前に。そこで出された特別課題は『外国の子どもと文通しそれを発表する』ことでした。

 山が好きだから、という理由だけでアビーはなんと文通先を、何も深く考えずにアフガニスタンにしてしまいます。


 一方アメリカの女の子からのお手紙を受け取ったアフガニスタンの村は大騒ぎになります(そりゃそうだ)。

 ここは英語が出来る(アフガニスタンはダリー語であり、英語とは全く異なる言語なのです)優等生な男の子のサディードが返事を書くべきですが、男の子と女の子が文通するなんてけしからん! どうしよう! と村の長老達はてんやわんや。

 結局、サディードの妹のアミーラが手紙を書くのを兄サディードがサポートする、つまりは代筆、という形で落ち着くことに。アビーの手紙の末尾にはこうありました。


「すぐにお返事をください。あなたからの手紙が来ないと、私はこの課題でいい成績がとれません。」


 ド直球ですね。さすがアメリカン。

 サディードも、なんで女の子と女の子のお手紙に挟まれてそんな面倒なことしなきゃいけないんだよ……みたいな感じで代筆を引き受けるのですが、妹の手紙を代筆するうちに、「ぼくだったら、もっとずっとおもしろい手紙が書けたんだけどな」と思うに至ります。

 そして妹アミーラからの手紙に、色々と付け足すのです。英訳した自作の詩や、カメラの代わりに書いた絵の数々。


 そしてそれを受け取ったアビーは、最初に出した適当な手紙ではなく、もっともっと素敵な手紙を出そうと決心するのです。


 一方、アミーラの手紙の代筆だけでは飽き足らなくなったサディードもまた、こっそりとアビーへ手紙を出すことに。

 こうして秘密のお手紙のやり取りがはじまっていくのですが……という物語。


 往復書簡、というのは古来より色んなタイプがあるのですが(私の大好きなジャンルのひとつです。人様の個人的なお手紙を覗くのって、ちょっとした背徳感があると思うのです!)、まさかのアメリカンガールとアフガニスタンボーイの真摯で、それでいてほんのり淡い想いまでうっすら滲んだ手紙のやり取りがはじまるのですが……というのが本作です。


 課題図書というのは、読書感想文で何を読めば良いのか選べない人とかがしょうがなく、またはなんとなく選んで読む、比較的「模範的で」、面白いかと言えば、うーんそうかな……? みたいなイメージがあったのですが(失礼ですね)、この一冊は、最後まで胸をときめかせたり、アフガニスタンの日々の生活や、アメリカの女の子の心が開かれていく様子に思いを馳せたりと、とても面白く読むことが出来るのです。


 そして待ち受ける終盤の波乱の展開にはドキドキです。サディードの手紙がタリバンの構成員に見つかってしまい、あわやということになりかけるのです!

 アメリカと戦ったあの武装集団タリバンですから、アメリカンガールとの淡い文通なんて許されるわけもなく……一体この文通の行方はどうなってしまうのか……と最後まで一気に読み通してしまいました。


 そして、サディードの手紙のおかげで、美しいものは身近にもあるということに気付くアビー、そしてそれはまたサディードも同じこと。

 二人の人生はこれから先も続いていくのですが、いつの日かこの二人がどこかで出会う日などは来るのかな、などと読後に色々と考えてしまう一冊でした。


 アフガニスタンのニュース、それも、タリバンにまつわる(あまりよくない)ニュースを聞く度に、彼らはどうしているのかな、と今でもふと思います。

 読書というのは、実際には存在しない作中の人物に対してこんな風に思いを馳せてもよいというところが、とても良いところですね。


「きみの人生にたくさんの幸福が訪れますように」


 というサディードの心のこもった柔らかな言葉で幕を降ろしていく本書。

 少しの甘酸っぱさや切なさ、現実の厳しさよりは、未来への希望に満ちていて、文化や風習は違っていても、人はわかり合えるものなのだ、という願いが込められているようなこの一冊。


 今はおそらく図書館や古本屋でしか読めない本だと思うのですが、もしも見かけたら是非とも手に取ってみてください。


@akinona




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