やっぱりESG商品は可愛さも大事

コンビニでお弁当を買う。
カフェでテイクアウトする。
イベントでフードボックスを受け取る。
そのたびに、私たちはだいたい何かを捨てている。
紙の箱。プラスチックのふた。ソースの小袋。ストロー。カップ。
おいしいものを食べた後に、なぜか少しだけ申し訳ない気持ちになるあの感じ。
でも、もしその包装が、海藻からできていたらどうだろう。
イギリス・ロンドン発のスタートアップ「Notpla」は、そんな少し不思議で、でもかなり現実的な未来をつくっている会社です。
Notplaが作っているのは、海藻や植物由来の素材を使った、プラスチック代替パッケージ。テイクアウト容器、食品包装、液体を包むカプセル、紙素材など、いわゆる「使い捨て包装」の世界を、もう少し自然に近づけようとしています。
名前の由来は、おそらくとてもわかりやすい。
Not plastic.
Notpla.
つまり、プラスチックじゃないもの。
海藻でできたパッケージって、なにがすごいの?

Notplaの面白さは、ただ「エコっぽい」ことではありません。
海藻という素材の選び方が、かなり良い。
海藻は育つのが早く、農地も淡水も肥料も基本的には必要としません。つまり、トウモロコシやサトウキビ由来のバイオプラスチックとは違って、食料生産と土地を取り合いにくい素材です。
しかも、海藻は昔から人間の生活にかなり入り込んでいます。味噌汁にもいるし、寿司にもいるし、化粧品や食品添加物の世界にもいる。
そう考えると、「海藻で包装を作る」という発想は、未来的なのに妙に懐かしい。
SFというより、味噌汁の延長にある未来です。
Notplaは、この海藻由来の素材を使って、自然に分解される包装を開発しています。たとえば、同社の代表的なプロダクトには、海藻コーティングを施したテイクアウト容器や、液体を包める「Ooho」という食べられるカプセルがあります。Notplaは2022年に、ウィリアム皇太子が創設した環境賞「Earthshot Prize」も受賞しています。
“食べられる水”から始まった会社

Notplaの初期プロダクトとして有名なのが、「Ooho」です。
これは、水やドリンク、ソースなどの液体をぷるんと包む、海藻由来のカプセルのようなもの。イメージとしては、イクラや水まんじゅうに近いかもしれません。
ペットボトルの代わりに、水を小さな球体にして持ち運ぶ。
マラソン大会で、プラスチックカップの代わりにそのまま口に入れる。
イベントで、カクテルやソースを小さな“食べられる包装”に入れる。
少し変だけど、なんだか楽しい。
実際、Notplaの共同創業者であるRodrigo García GonzálezとPierre Paslierは、2013年にImperial College Londonでこの食べられる水のプロトタイプを開発しました。最初は学生キッチンで手作りしていたそうです。
ここが良い。
偉大なサステナブル商品は、たまに「正しすぎてつまらない」ことがあります。
でもNotplaは違う。
最初の印象が、説教ではなく「なにこれ?」なのです。
環境に良いから使う、だけではなく、ちょっと試してみたくなる。
この“好奇心の入口”が、Notplaの強さだと思います。
本命は、テイクアウト容器かもしれない

とはいえ、Oohoのような食べられる水は、とてもキャッチーですが、日常生活に広く入ってくるには少しハードルがあります。
一方で、もっと現実的に広がりそうなのが、Notplaのテイクアウト容器です。
多くの紙容器は、見た目は紙でも、油や水を弾くために内側にプラスチックや化学コーティングが使われています。つまり「紙だから環境に良さそう」と思っていても、実際にはリサイクルや堆肥化が難しい場合があります。
Notplaはこの部分を、海藻由来のコーティングで置き換えようとしています。食品容器として使いやすく、油や水に耐えながら、プラスチックを使わない。Notplaの食品容器は、プラスチックやPFASを使わない海藻コーティングを特徴としています。
この方向性は、かなり大きい。
なぜなら、テイクアウト容器は私たちの日常にすでにあるからです。
新しいライフスタイルを押し付けるのではなく、いつものランチボックスの中身を変える。
いつものフードイベントの容器を変える。
いつものカフェの紙カップを変える。
サステナブルな商品が広がるとき、大切なのは「意識の高い人だけが頑張る」ことではありません。
気づいたら、前より少し良いものを使っていた。
そのくらいの自然さがある方が、たぶん強い。
## Notplaが面白い理由は、“環境商品っぽくない”ところ
Notplaの魅力は、環境問題を扱っているのに、プロダクトとしてどこか軽やかなところにあります。
海藻。
食べられる水。
消える包装。
イベント会場で使えるフードボックス。
言葉だけで、少し楽しい。
これは、ESGやサステナビリティの分野ではかなり大事です。
多くの環境商品は、どうしても「我慢」や「義務」の空気をまといがちです。
プラスチックを減らしましょう。
CO2を減らしましょう。
環境負荷を下げましょう。
もちろん、それは正しい。
でも、正しさだけでは人はなかなか動きません。
人が動くのは、たいていの場合、
「おもしろい」
「かわいい」
「誰かに話したい」
「使ってみたい」
と思ったときです。
Notplaは、そこがうまい。
「海藻でできたパッケージなんだよ」と言われると、ちょっと誰かに話したくなる。
この“話したくなる感じ”は、実は商品としてとても強い。
イギリスらしいサステナブル商品の形
Notplaはロンドン発の会社です。
ロンドンという都市は、サステナビリティに対して少し独特な距離感を持っています。
理想だけでなく、デザイン、イベント、フードカルチャー、公共空間と結びつけるのがうまい。
Notplaもまさにそのタイプです。
スポーツイベント、大学、フードサービス、都市のテイクアウト文化。
環境技術を研究室の中だけに閉じ込めず、人が集まる場所に持っていく。
NotplaはWimbledon、Wembley、O2 Arenaなどの英国の大型会場でも利用が広がっていると報じられており、テイクアウト包装のような高頻度・高フットフォールの場所で実装されている点が特徴です。
これは、日本でもかなり参考になります。
たとえば、フェス。
百貨店の催事。
駅弁。
空港。
ホテルの朝食。
スポーツスタジアム。
美術館のカフェ。
コンビニの高級ライン。
「エコな包装です」と言うより、
「このイベントの包装、海藻でできています」と言った方が、ずっと楽しい。
日本でNotpla的な商品が広がるなら?
日本でNotplaのような海藻パッケージが広がるなら、最初に相性が良さそうなのは、コンビニよりもイベントや観光地かもしれません。
理由はシンプルです。
コンビニは量が大きすぎて、コストや供給のハードルが高い。
一方で、イベントや観光地は「体験」として語りやすい。
たとえば、こんな感じです。
海辺の音楽フェスで、海藻由来のフードボックスを使う。
京都のホテル朝食で、自然に還るパッケージを使う。
美術館のカフェで、Notplaの容器を使った限定メニューを出す。
スポーツイベントで、プラスチックカップの代わりに海藻素材の包装を使う。
こういう使い方なら、単なるコストではなく、ブランド体験になります。
日本企業はサステナブルな取り組みをするとき、どうしても真面目な説明資料を作りがちです。
「脱プラスチックに向けた取り組み」
「環境負荷低減に関する実証実験」
「循環型社会の実現に向けて」
もちろん大事です。
でも、もう少しだけ遊びがあってもいい。
「今日のランチボックス、海藻です」
それくらいの一言で伝わるサステナビリティの方が、案外強いのではないでしょうか。
プラスチックの代わりに、“自然に戻る違和感”を選ぶ

Notplaが教えてくれるのは、プラスチックの代替は必ずしも「プラスチックそっくり」である必要はない、ということです。
むしろ、少し違和感がある方がいいのかもしれません。
海藻でできている。
食べられる。
土に戻る。
数週間で消える。
イベントで使うと話題になる。
この少し変な感じが、未来の入口になる。
プラスチックは便利です。
軽いし、安いし、丈夫で、水にも油にも強い。
だからこそ、いきなりすべてを置き換えるのは難しい。
でも、すべてを変えなくても、変えやすい場所から変えていけばいい。
テイクアウト容器。
イベントのカップ。
ソースの小袋。
フードボックス。
紙容器の内側のコーティング。
そういう小さな場所に、Notplaのような素材が入り込んでいく。
そしてある日、私たちは気づくのかもしれません。
あれ、包装って、こんなに自然でよかったんだ、と。
## Notplaは、海から来た小さな発明
Notplaは、巨大な思想を語る会社というより、日常のゴミ箱を少し変える会社です。
でも、その小ささがいい。
私たちは毎日、何かを包み、何かを持ち運び、何かを捨てています。
その当たり前の行為の中に、ほんの少しだけ海藻を混ぜる。
それだけで、サステナビリティは急に身近になる。
脱プラスチックは、難しい顔で語るだけのものではありません。
ときには、ぷるんとした食べられる水から始まってもいい。
お弁当箱の内側に塗られた、目に見えない海藻から始まってもいい。
Notplaは、そんなことを思わせてくれるブランドです。
環境に良いものは、もっと楽しくていい。
未来の包装は、もっとかわいくていい。
そして、たまには海藻でできていてもいい。
次にテイクアウトの箱を開けるとき、少しだけ想像してみてください。
この箱が、海から来て、また自然に戻っていくとしたら。
いつものランチが、ちょっとだけ未来っぽく見えるかもしれません。
