ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト。生きていれば1度はどこかで、あの優雅でどこか憂いを含んだ独特の軽やかな旋律を聴くことがあるでしょう。
その波乱万丈な生涯もまた色んな伝記や映画、ミュージカルになって、私達を愉しませてくれるのですが(傑作映画『アマデウス』なんてその最たるものになりますね! 史実は一旦脇に置くとして、それでもあの映画は傑作なのです)、今回紹介するのは、そのモーツァルトがもしも女だったら、という大胆にも程がある仮説(?)の元に書かれた全3巻の漫画『マドモアゼル・モーツァルト』です。
時は1760年。ひょんなことから娘エリーザに秘められた無限の音楽的才能に父レオポルトは気付いてしまいます。そして、エリーザの髪を切り落とそうとハサミを片手に家族の反対を押し切って大暴れ。
「君は女で有名な音楽家を知っているか!? 女がかつて宮廷音楽家に任命されたことがあるか!? どうだ? せいぜいがクラヴィーア教師どまりじゃないか!」
「この子は神が遣わしたに違いない。その子を私たちが引き受けたんだ(中略)神の意志に背いてはならないんだ」
そして、「エリーザ」という天才少女は、「ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト」になってしまい、ウィーンの売れっ子音楽家になってしまいます。
そして中身は女性なのに、たくさんの女性ファンに追い回されて難儀しているところを、たまたま通りかかった旧知の宮廷楽長アントニオ・サリエリに助けて貰うのですが(ええ、そうです。映画『アマデウス』でもあまりに有名なあのサリエリです)、助けて貰った時の些細な触れ合いがきっかけで、サリエリは『何か』に目覚めてしまうのです。
「……なんてやわらかな体なんだあいつ……まるで女のようにきゃしゃな手……(中略)いやこれはなにかの間違いだ……そりゃあ確かにモーツァルトは昔っから女性的だ。色白だし声も妙に高い。だがそれがどうした(中略)冗談じゃないやめてくれ! 私は女が好きだ。今までずっと女を愛してきた。これは何かの間違いだ。さもなければ悪い夢だ……」
そしてモーツァルトもまた、中身は女性ということを知らない下宿屋の娘コンスタンツェとの結婚を迫られ、なんとそれを承諾してしまうのです。
もちろん女性だと言うことを隠したまま!
もちろん、バレます。初夜の夜から大喧嘩になります(そりゃそうですよね。男だと思って結婚した相手が女性だったらそれはもはや詐欺です)
一旦は怒り狂って実家に帰ってしまうコンスタンツェでしたが、女性と結婚してしまった……なんて家族に言えるはずもなく、帰ってきます。
仕事も順調で、豪勢な生活を送るうちに、コンスタンツェはモーツァルトの弟子であるジュスマイヤーとの間に子どもを設けてしまいます(もちろん表向きはモーツァルトの息子と言うことに)
そんな中、父レオポルトの訃報が故郷から届きます。
その途端、何かが解き放たれてしまったモーツァルト。コンスタンツェのドレスを着て、メイクをして、「エリーザ」と名乗り、ウィーンの街へと繰り出し、劇場へやって来ます。アントニオ・サリエリの指揮するオペラへと。
そして、『あの日から』内心モーツァルトにぞっこんだったサリエリは、劇場にいた『エリーザ』がモーツァルトその人であると言うことに気付きます。劇場から無理やり連れ出して口説こうとするサリエリ。無礼を働いたお詫びに『エリーザ』を家へと招待しますが、色々あって、自分より音楽の才に長けている彼女を、自ら追い出すことになってしまいます。
その一方、「夫が欲しい」と願っていても、カトリック教徒であるコンスタンツェは、夫婦のどちらかが死なない限り離婚・再婚はできません。
懊悩するコンスタンツェとジュスマイヤー。
そしてモーツァルトに宮廷作曲家のポジションがやってきます。以前サリエリは長年の愛人カテリーナに、こう問われていました。
「男の人って自分より優れている相手を愛することができるの?」
ここで、このタイミングで挿入されるのが、ワインに毒を仕込むシーンです。
そして話は、終幕へと進んでいくのです。
セクシーでコケティッシュな「モーツァルト」に人生をかき乱されたサリエリ、そしてコンスタンツェ、そしてその周囲の人々も入り交じった中、少しづつ体調を崩していくモーツァルト。
本当に毒を盛られているのか、だとしたら誰に?
『レクイエム』の依頼に、『魔笛』の興行師シカネーダーの登場。『魔笛』の大成功と共にやってくる、モーツァルトその人の命の炎の尽きていく日。
これらを精緻に、セクシーに、そしてミステリアスに書き上げたコミックが『マドモアゼル・モーツァルト』なのです。
初めて読んだときは本当にびっくりしたこのコミック。
『アマデウス』同様、こちらでもまたモーツァルトのライバルとして(?)登場するサリエリ。そして『アマデウス』よりもさらに厄介かつ複雑な存在と化した天才作曲家モーツァルト。
なお、サリエリですが、史実ではめちゃくちゃ善人で後輩作曲家をもりもり育てて、かつ、同輩からも慕われる音楽界の聖人みたいな重鎮だったので、フィクションの世界でのイジられっぷりは本人およびお世話になってた人々があの世で嘆いているんじゃないかしら、と思うことすらあります。
ですが史実は史実、フィクションはフィクション。そうやって楽しめる人におすすめの、隠れた名作漫画となっています。
更には何とこの作品、ミュージカルにもなって時折再演されることもあります。音楽担当は何と小室哲哉!(35年ぶりに、2026年5月から音楽座で再演されるこのミュージカルに合わせて新曲を書き下ろして話題になっています)
モーツァルトの音楽に心を震わせたことがある人もない人も、今はKindleで手軽に読むことが出来ます。
気になった方は是非1度手に取って、サリエリ同様セクシーでコケティッシュなモーツァルトに振り回されてみてください。
@akinona

