『検索してはいけない言葉』にまでなった、心霊オムニバス『死画像』の最後の一篇、『クニコ』。80年代に放送されたと思われるニュース番組にて、遺体で発見されたという少女の写真がノイズと共に動き始めるという斬新さで人気を博し、現代心霊ビデオのアンセムとして君臨している。『死画像』の発売元であるアムモ98がYouTubeにアップしている、『【閲覧注意】自殺した少女のニュース映像』という動画では短く編集されているが、実はこの『クニコ』、本編では9分ある。ただ古いVHSのノイズをじっと眺めなければならない時間が続くのだ。いつ何が現れるか分からない緊張の中において、この9分は果てしなく長い。ショート動画全盛、一億総ドパガキ時代ならばなおさらだ。
そんな『クニコ』の収録された『死画像』から始まるのが、『呪われた心霊動画XXX』シリーズである。群雄割拠な心霊ドキュメンタリーの歴史において、一つの「決定版」と言えるであろう本シリーズは、心霊オムニバスとしての文法をそのままに、投稿映像同士の「繋がり」を示唆する、現代的な演出がなされている。前エピソードと同じ場所で撮られた映像だったり、同じ人が撮られた映像だったり、もしくは回をまたいで同じキャラクターやモチーフが登場したり……。しかも、その事実が作中で触れられなかったりもするのがニクイ。未だ冷めやらぬ考察ブーム、目と耳だけでなく、左脳でもホラーを楽しむ現代に、『XXX』シリーズはうまくマッチしていると言える。
百物語に倣い、100エピソードごとに新シリーズへと移行する本作は、『死画像』(こちらは1巻のみ)、『呪われた心霊動画XXX』、『呪われた心霊動画XXX_NEO』、そして現行シリーズである『呪われた心霊動画XXX_ZERO』と続き、2026年5月22日、シリーズの集大成である劇場版『クニコから始まる話』が公開される。もう楽しみで仕方がないんで、今回はシリーズを振り返り、私のお気に入りのエピソードを紹介させていただきたい。少しでも興味を持ってくれた方はさっさと見て、『クニコから始まる話』に備えようじゃないか!
※映像の内容に触れています。
『夢の続き』(XXX 7)
実家に眠っていた8ミリのホームビデオを再生してみると、謎の映像が入り込んでいた……というお話。古い廃墟をナナメに固定撮影したガビガビのビデオという、いかにも今の流行っぽいカンジだが、やはり天下のXXXは格が違う。怖いのは勿論、端的にカッコイイ映像。女性の横たわるY2Kな構図にあらわれる怪異も、「映像」と同化したようなデジタル的な動きを見せるのが新鮮で、独特の味わいとなっている。怖いか、怖くないか、だけでなく、映像芸術として意識してみると、心霊ビデオは何倍も面白くなる。
『スピーカーフォン』(XXX 14)
心霊スポットに訪れた女子大生3人組。そのうちの1人が罰ゲームで呪いの橋を渡ることになって……というのは超定番の流れだが、本作で描かれるのはジャンケンに勝った側。つまり待機組である。橋を渡っている最中の友達と電話を繋ぎ、コワイことを言ったりして冷やかしていると……。というシチュエーションが抜群。電話口からは徐々に友達の泣き叫ぶ声が聞こえてきて、「ダメ。これヤバイって!」と一気に走り出す様子には、夏のエモーションすら感じさせる。何とか車に逃げ帰った3人だが、1人がカメラを落としてしまったことに気が付く。「教授に借りたカメラだもん、返さなきゃ。お願い、一緒に戻って」。何故か木にぶら下がっていたカメラが捉える3人の姿、懐中電灯の光、幽霊の顔と声。何度見ても惚れ惚れするような、夏のマスターピースである。
『殴る霊』(XXX_NEO 13)
東京ドームシティで、昼食を何にするか話している友達2人組の映像。遊園地ということもあって2人ともテンションが上がっており、ここからどういった怪異が出現するのか想像もつかないほど明るい雰囲気だ。「やっぱりピザじゃない?」「ピザいいね!イエーイ!ピザイエーイ!」とはしゃぎ始めた今村さん(仮名)の奥から、白いモヤのような影が走ってきて、今村さんを思いっきり殴る。カメラは地面に落下し、「痛い!」と悶絶する今村さんと、それを心配する撮影者の声……。あまりにも恐ろしい現象だ。「結局生きた人間のほうが怖い」なんてよく言われるけれども、普通に殴ってくる幽霊がいたらさすがにそのほうが怖いだろう。決して笑うような内容ではないのだが、そのあまりの脈絡のなさに、私は噴き出してしまった。べつに、人の不幸を笑ってやろうなどと露悪的に努めたわけでは決してない。時として笑いと恐怖は紙一重であり、こと心霊ビデオという文脈においてはなお顕著である。不謹慎にもヘラヘラとしている私とは対照的に、映像にまつわる物語は悪意渦巻く恐ろしいもの。一見の価値はある。
『幽霊フィルム』(XXX_ZERO 01)
社会人映画サークルの事務所で見つかったVHS-Cテープ。それはモノクロ映画の1コマが延々と繰り返されるという謎の内容だった……。前述した『クニコ』は9分という尺であったが、なんとこの『幽霊フィルム』は20分。しかも音はなく、ひたすら同じシーンの繰り返しという、まさしく現代に逆行するような挑戦的な内容。あまりの怖さに一度見るのを断念し、後日、明るい時間に改めて見直したほど。われわれドパガキにも見やすいように工夫するのではなく、「いいからこれを見ろ」と首根っこを掴んでくる姿勢には感動させられるばかりだ。超オススメ。
『口紅』(XXX_ZERO 5)
レンタルスペースを借りて在宅ワークに集中する投稿者。すると、どこかから口紅が落ちてくる。不思議に思う投稿者はカメラを回し、室内を調べ始めるが……。特筆するシチュエーションではないものの、幽霊の動きが本当に怖くて、ビックリしたとかではなく「ヒッ」という声が出た。幽霊は造形も大事、タイミングも大事、そして動きも大事。地味といえば地味なエピソードではあるが、これは怖いよ。老舗の玉子寿司のような、味わい深い一作だ。
一旦これくらいにしておこう。いま思い出せるものだけで書いているので、抜けている傑作も多くある筈。全体的にレベルの高い、現代心霊ドキュメンタリーの決定版。Amazon Prime Video等で配信されているほか、『クニコから始まる話』公開を記念して、YouTubeに『XXX』(無印)シリーズが順次アップされている。夏も始まるときた。見るなら今しかないぞ!
『クニコから始まる話』の監督を務めるのは、『死画像』収録の『クニコ』を匿名で演出した立役者、岩澤宏樹。数多くのホラー作品を手掛けてきた(おそらく『XXX』シリーズにも深く関わっているだろう)彼のキャリアの中でも、代表作と言えるであろう『心霊玉手匣』シリーズは、セカイ系心霊ドキュメンタリーという新境地を確立した傑作シリーズだ。そちらも合わせて、是非チェックしてほしい。今年は心霊ビデオの一年や!
『クニコから始まる話』は、2026年5月22日(金)公開。
ライター:城戸
