リアルプリンセス奮闘記〜『赤と青のガウン オックスフォード留学記』を読む

· 教養

日本の皇族の方々の生活、というものはとにかく注目されがちですね。SPっぽい人達(正式には『側衛官』というそうです)に囲まれて、上品な笑顔を振りまきながら歩く姿を、我々一般市民はどうしても想像してしまいがちです。


「生まれて初めて一人で街を歩いたのは日本ではなくオックスフォードだった」


 そう綴っているのは三笠宮彬子女王。三笠宮家の由緒正しきプリンセスです。


 この留学記のタイトルになっている『赤と青のガウン』とは、オックスフォード大学の学位授与式で着ることが出来るガウンのこと。


 この本は女性皇族としてはじめて博士号を取得した彬子様による、明朗で瑞々しく読みやすい筆致で綴られた1冊です(そして2023年に突如としてSNSでバズったことで一躍有名になった一冊でもありますが、本が出版されたのは実は2015年のことです)


さて、皇族の方が海外に留学する時に私たち一般庶民が気になることといえば『護衛はどうするんだろう』ということでしょう。本文中にも記載があります。彬子様によると、


「答えは、「EU圏内における二週間以上の滞在の場合、護衛官は付きません」である」


 とのこと。幼い頃からこの護衛官、特に皇族の側にいて警備を担当する「側衛官」に囲まれて暮らしているのが当たり前で、もはや家族も同然なのだそうです。


 巨漢でおっかない風貌の側衛が彬子さまの後ろにそっとついていることで、若い女の子の後をつけているように見えてしまい、海外の美術館の警備員にものすごく怪しまれることなどもあった模様。


 しかし留学中はそんな側衛もおらず、四六時中ついてきてくれるはずの彼らがいなくてむしろ寂しい思いをしたり、逆に、いきなり友人から電話がかかってきて10分後に会ったり、急に思い立って映画館に行ったりなどという経験は、日本ではできなかったそうです。


 「日本に帰って元の生活にまた馴染めるかな」と思っていた彬子様ですが、そこはさすがは皇族というべきか、日本に帰ると日本の生活へとスイッチがきちんと切り替わったそうです。


 オックスフォード留学の模様は、本当に一般の大学生とそんなに変わらないのに好感を覚えます。英国では日本と異なりフルネームを名乗ることがないので、普通の「日本から来た歴史専攻のアキコ」でいられたそうです。(なんと「アキコジョオウ」を「アキコ・ジョー」だと勘違いした人もいた模様)


 特別扱いされない環境で、英語に苦闘しながら慣れない留学生活をはじめるその姿は、一般的な大学生とそんなに大差がないように思えて、畏れ多くも好感度がめちゃくちゃ上がるというものです。


 オックスフォード大学といえば、かの『ハリー・ポッター』(映画)のロケ地になった食堂があったりするそうですが、あの映画に登場するような場所でフォーマルなディナーを楽しむこともあったそうです。

 この本は英国の学生生活についてかなり事細かに書かれているので、ハリー・ポッターシリーズなどを愛読している人には、副読本として大変オススメでもあります。


 さて、皇族であるということは、戸籍も住民票もなければ、国民健康保険にも加入することができないということだそうです。

 そのためパスポートは外交官が持つものと同じ「外交旅券」と記載された茶色いパスポート(ちょっとレアなものですね)になるそうですが、


「スーツケースを自分で運び、ジーンズにセーター姿で目の前に立っている女の子がまさか本物のプリンセスだとは思えなかったのだろう」


 とある通り、入国審査の際は「あなたほんとうにプリンセスなの?」「そうです」「まあ、光栄ですわ!」という、映画か漫画か小説の中でしか観たことがないようなやり取りがよく発生したとのこと。

 さすがはプリンセス。


 そしてこのプリンセスこと彬子様ですが、オックスフォードへの「留学」だけではなく、大学院できちんと学位を取得するため、日本の大学を卒業してのち再度このオックスフォードに再留学することを決意します。


 そして、それにあたって必要なのはプリンセスのお父上こと三笠宮殿下のお許しです。

 曲がったことが嫌いで、筋の通らないことには烈火の如く怒るけれども、きちんと筋を通して話し、納得がいくものであれば最大限のサポートをしてくれる、そんな父親を説得することにも成功し、「二年後にまた戻ってくるから」とオックスフォード大学を後にします。


 というわけで、学習院大学(皇室といえばここの大学、というイメージもありますね)を卒業し、オックスフォード大学への入学許可を得るべく、帰国後も七転八倒しつつ猛勉強。無事にオックスフォード大学に入学を果たすのです。


 伊勢神宮や、明治・大正・昭和天皇陵にきちんとご報告してのち、二度目の留学を果たし、大英博物館でのボランティアスタッフもこなし、と忙しい日々を過ごす合間にも、親友の子供の名付け親になったり、チャリティーショップ(チャリティバザーみたいなものですね)で掘り出し物を見つけたり、女王陛下に招かれてお茶をしたり……。


 そして2011年5月、合計5年間の研究生活の成果が認められて、オックスフォード大学から博士号を授与されることになるのです。

 しかし学位授与式は東日本大震災からまだ2ヶ月余り。宮内庁からは「延期してはどうか」と苦言が届きます。そこで背中を押してくれたのが父の三笠宮様でした。このお父様もまたオックスフォード留学経験者。


「一世一代、一生に一度の大切な儀式なのだから、出席しないと後悔する。出てくるかもしれない雑音は、自分が文書発表でも記者会見でもして抑えるから安心して行ってこい」


 こうして、プリンセスの留学生活に幕は降りていきます。


 私は留学や外国での大学生活などをした経験はないのですが、語学にレポートに試験にその他諸々の、大変そうなことがいっぱい書かれていても、人と人との付き合いが事細かに、そしてユーモラスに描かれているこの本を読んでいると「やっぱ大学時代に一度は留学しておくべきだったんだろうなあ…」などということを考えてしまいます。


 新生活のシーズン(この記事が載る頃にはそれにも一息ついた頃でしょうが)、新たなことに挑戦して目まぐるしかったり、憂鬱なことに見舞われたりした時など、一読するとなんとなく元気と勇気が湧く一冊です。是非とも!


@akinona


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