「好き」とも少し違う、「憧れ」という気持ち。私たちはなぜ、何かに憧れるのでしょうか。そして、憧れは私たち自身に何をもたらすのでしょうか。「『憧れ』の正体」では、その世界をつくる人へのインタビューや、ブランド、ホテル、美術館など、人を惹きつける思想や背景を読み解くことを通して、「憧れ」という感情の輪郭を探ります。
今回は、PlayStationのUXデザインやSONYの「Life Space UX」の立ち上げに携わり、現在はMONTAG DESIGNを率いる中山隆司さんにお話を伺いました。
プロフィール
中山隆司(なかやま・りゅうじ)
1972年東京生まれ。法政大学文学部卒。デザインディレクターとしてPLAYSTATIONでUXクリエーションに長年携わる。その後、サンフランシスコのR&Dスタジオでスタンフォード大学との共同開発、SONYのニューコンセプト「Life Space UX」の立ち上げを経て、2018年クリエイティブスタジオ「MONTAG DESIGN(モンタークデザイン)」を設立。これからのヒトの価値はどうあるべきかにフォーカスし、独自の視点からプロダクト開発をベースに表現している。
「CG」から始まった、世界観をつくる仕事
ーー現在デザインを手掛けられていますが、最初からその領域を目指していたのでしょうか?
中山隆司(以下、中山):最初は映画というか、映像やクリエイターの世界にぼんやりと興味があったんですよね。団塊ジュニアの世代で就職が難しくなっていた時代で、普通に就職活動をすることは考えませんでした。
そこで、当時CGが出始めた頃で、デジタルハリウッドの2期生としてCGを勉強したんです。CGって、監督でありカメラマンであり役者でもあるみたいな感じで、自分の中でひとつの完結した世界を全部作ることができて、そこがすごく面白いなと思っていました。周りは「CGを作る人」として就職する人が多かったですが、僕はCGを素材にして編集して、ひとつの世界観を作る方が面白いなと思って売り込みをし、ポストプロダクションに入社しました。
文学部に入ったのも経済学部や社会学部ではないところへ行きたくて。ひねくれものなんです。
ーーそこからなぜPlayStationのUIデザインに携わることになったのですか?
中山:ポストプロダクションにあった高価な機材は業務時間外にしか触ることができませんでした。そんな時、PlayStationでは自分の機材として使うことができると教えてもらったんです。それが魅力で行きました。
当時はまだ「UI」とか「インターフェースデザイン」っていう職業や言葉自体が存在していなかったんですよ。PS2の時代になって、画面に対して人がコントローラーで何かを操作することが当たり前になっていく中で、自然とユーザーの気持ちや世界観を考えるようになっていったんです。気づいたらそこにいて、後から言葉がついてきたという感じですね。
世の中のデジタルで人が見たことないようなクオリティを見せて驚かせることを命題としてやっていて、現場もすごく熱量が高くて、みんな自信満々で世界にインパクトを与えるものを作っているという実感がありました。
圧倒的な環境のなかで、「自分の基準」を探した
ーーその後、サンフランシスコのR&Dスタジオで5年間過ごされていますが、現地での経験はどのような影響を与えましたか?
中山:スタンフォード大学の教授や学生たちとシリコンバレー的なスタートアップ環境で共同開発をしていたんですが、すごく濃い5年間でしたね。みんな一旗揚げていこうという感じで、カフェに行くとエンジニアとデザイナーが集まって開発をしていました。
それから、日本にいると見えないような、圧倒的に高いレベルの人たちもいれば、全力で下に振り切ってくるような人もいました。その振れ幅やレンジの広さを目の当たりにして、視野が一気に広がりました。
ーー圧倒的な環境の中で、ご自身のスタンスに変化はありましたか?
中山:やってもやっても追いつけない。止まったら終わりで、どこまでやったら安心っていうのが全然なかったです。でもそこから、「自分って何なんだろう」とアイデンティティを深く探求するようになりました。そのプロセスを経たことで自分の中の解像度が高まって、「自分が良いと思う基準や戻り先」が明確になったんです。
ーー帰国後、ソニーのニューコンセプト「Life Space UX」の立ち上げに参画されますね。
中山:当時の平井社長から「自分の手を通して新しいものを作る」というミッションで始まったプロジェクトで、最初は3人の小さなチームからスタートしました。「新しいものって何だろう」という問いをずっと追求しながら、毎年1月にアメリカで開催されるCES(Consumer Electronics Show)とドイツで開催されるIFAでお披露目をしていました。家の一角を再現して「こういう生活体験はどうですか」と提案し続けていました。
ーーどのような提案をされていたのですか?
中山:4機種くらい作りました。そのなかに、SONYの単焦点プロジェクターを使ったプロダクトがありました。「映画やコンテンツはスクリーンやテレビで見るもの」という固定観念や常識がありますよね。でも、人中心で考えたら、「今自分がいる場所で自然に見える方」が普通なんじゃないかと思ったんです。あえて主張させず、空間や日常の文脈の中に自然に溶け込ませる。世の中の「当たり前」に対して「本当にそうかな?」と疑問を持ち、人がまだ気づいていない心地よさを拾い上げて形にしていく作業でした。
「当たり前」を疑い、まだ見えていない心地よさをつくる
ーー2018年にMONTAG DESIGNを立ち上げたのは、どんな想いからだったのでしょうか?
SONYの「Life Space UX」の部署が終わってしまうことになり、続けたいと思ったからです。AIやすごい技術、すごいグラフィックで驚かせるより、あったけど気付いていなかったような視点ってまだあるんじゃないのと思いました。
ーーどのようなものを生み出していきたいですか?
もしかしたら、何かに気付いたらちょっと良くなるものってあるんじゃないのと思っています。決められちゃっていることを紐解かないと気付けなかったりして、それを問うてみようと。
最終的には、家の中にある「普通のもの」を作りたいです。もうちょっと良くなる当たり前とは何かと聞かれたときに、モノとして見せられるものですね。何かに気付いて、それがかき消されてしまっていると思うんです。それをいかにかき消さずにできるか。それを拾い上げ、明らかにそっちの方が心地が良いという体験を生み出したいですね。
The Music Frame|音楽再生と同じタイミングでそのジャケットが表示される。ストローマガジンでも取り扱いあり
The Earth Box|プロトタイプとして制作。身支度を整える最中にメッセージに出会うことができる。
憧れは、「悔しさ」とともに
ある
ーーこれまでのキャリアを振り返り、中山さんにとって「憧れ」を感じる対象や感情とはどのようなものですか?
中山:憧れじゃなくて、悔しい。むっちゃ悔しいと感じてしまいます。圧倒的なものじゃないと憧れないですね。ゼロからイチを生み出すクオリティと努力でいうと、スティーブ・ジョブズです。「こうじゃないとダメだよね」と思い出します。そのレベルのことができているとは思わないけれど、戒めとしての憧れを持っています。ひねくれているのかもしれないですが、悔しさと同時に憧れに当たる気持ちがあるんじゃないかと思います。
若い頃や自分の中の解像度がまだ荒かった時期は、高級車や時計みたいな分かりやすいラグジュアリーに目が行くこともありました。動きやすさや自分にとって本当に必要なものに目が向くようになって、どんどんミニマルになっていったんですよね。
ーー独立され、MONTAG DESIGNとしてプロダクトを生み出す中で、誰かに「憧れられる」プロダクトを作りたいという想いはありますか?
中山:「憧れられたい」という意図ではないですね。それよりも、普通の人が日常の中で当たり前に使っている中で、ふと「なんかいいな」「生活がちょっと良くなってるな」と感じられるようなもの。人の日常や身体性の上に自然と馴染んでいくようなプロダクトを作りたいです。そういう関わり方の方が自分にとってはしっくりきますね。
圧倒的な存在を「戒め」として抱いている中山さんのお話から、自分自身の歩む道を照らす「憧れ」の側面が見えました。「憧れ」は、ただ「こうなりたい」と願う気持ちだけではなく、自分自身の基準を問い続けるためのものでもあるのだと感じました。
取材・執筆:兒玉奈々
