「100万人の群衆の中から、この本の著者を簡単に見つけ出す方法がある。まずは、空が真っ黒になるほどのバッタの大群を、人々に向けて飛ばしていただきたい。人々はさぞかし血相を変えて逃げ出すことだろう。その狂乱の中、逃げ惑う人々の反対方向へと一人駆けていく、やけに興奮している全身緑色の男が著者である。」
書物というのは書き出しが大事だ、とモノを書く人間なら一度はどこかで聞かされたことがあると思います。
それはわかってるけどさ……と悩む方は、今回紹介する本の冒頭だけで良いので、手に取って見ることをおすすめします。
今まで色んな本を読んできましたが、新書の書き出しがこんなに『ヤバい』のはそうそうなかったと思います。
「私はバッタアレルギーのため、バッタに触られるとじんましんが出てひどい痒みに襲われる。そんなの普段の生活には支障はなさそうだが、あろうことかバッタを研究しているため、死活問題となっている。こんな奇病を患ったのも、14年間にわたりひたすらバッタを触り続けたのが原因だろう。
全身バッタまみれになったら、あまりの痒さで命を落としかねない。それでも自主的にバッタの群れに突撃したがるのは、自暴自棄になったからではない。」
「子供の頃からの夢「バッタに食べられたい」を叶えるためなのだ。」
今回紹介するのは、バッタ研究者なのにバッタアレルギー、しかもバッタに食べられるのが夢、という、なんだかとても難儀、というか、それだけに留まらず「えっそれ大丈夫なの……?」が最初から最後の辺りまでフルに詰まった一冊、光文社新書『バッタを倒しにアフリカへ』です。
著名の通り、これはアフリカのモーリタニアの研究所、サハラ砂漠までバッタ研究に行った著者の奮闘記(?)です。
アフリカの研究所で暮らしながら現地に生息するサバクトビバッタの群れが出没するのを待ちつつ、様々なフィールドワークをこなしていくルポルタージュであり、そこには予想外の七転八倒、悲喜こもごも、アフリカ暮らしあるある(?)、そして日本の研究者さんあるある(???)もこの一冊にはたっぷりと詰め込まれています。
著者のユーモラスな人柄と筆致もあってか、日本人のアフリカ暮らし、という話なのに嫌みも苦労も(苦労はまあまああるのですが)何故かちょっと楽しそうに描かれています。
なんかちょっとだけ「アフリカ暮らしも面白そうだな……」と思ってしまいます。何かの罠かも知れませんが。
子供の頃読んだ『ファーブル昆虫記』に感銘を受けて、昆虫学者を志した著者の名前は「前野ウルド浩太郎」氏と言います。
ちなみに、この「ウルド(Ould)」とは、モーリタニアで最高に敬意を払われるミドルネームで、「○○の子孫」という意味で、現地のバッタ研究所の所長さんが与えてくれた、歴史と伝統ある誇り高きミドルネームになります。
その(誇り高き?)著者が、賄賂を渡さなかったばかりに空港で酒類を全部没収されたり(本書の最初の苦労はこれでした)、アフリカの子供たちからバッタを買おうとして大失敗したり、スーツを日本から送って貰う為に七転八倒したり、なかなか現れないバッタの大群を待ってやきもきしたり、運転手さん(作中で大活躍します)と謎の言語やジェスチャーで(フランス語の取得をサボりながら)意思疎通したり……。
バッタ研究所ではウェルカムパーティーを開いて貰ったりなどして、何だかんだで皆と上手く馴染んでいくのです(なおその「皆」のほとんどが「モハメッド」さんであり、この本に出てくるモハメッドさんはそれぞれ皆、別の人だったりもします)
本書にはそんなアフリカ暮らしの研究ライフが余すところなく綴られているのです。
なお本書には虫の写真がたくさん載っていますが、虫が苦手な人用に『虫画像なし版』もあるそうです。ホスピタリティが行き届いてますね!(私は虫は大の苦手ですが、写真は平気ですし、研究者さんのディープなお話を聞くのも大好きなので平気で読み進んでいましたが……)
ジュニア版もある、とのことなので(著者による爆笑用語解説や新エピソードも追加。しかもオールカラー!)虫が大好きなお子様をお持ちの親御さんにも大変オススメの一冊となっています。
この本には研究者の苦労にも、夢を叶える喜びにも満ち満ちています。
テンションが高く、志も高く、そして読む敷居は低い(面白おかしく、難しい言葉も噛み砕かれて、全体にとてもわかりやすく綴られているのです)
オープニングのインパクト抜群の文章(もはや怪文書?)には思わずずっこけてしまいましたが、新書の中でもとっても良書だと思った次第。
近年では続編の『バッタを倒すぜアフリカで』も刊行されました。自分の婚活よりバッタの婚活に勤しむ相変わらずの博士の奮闘っぷりが読める模様。
本書を読んで気になった方は、是非ともセットで読んでみてくださいね。
@akinona

