夏に行きたい美術展のひとつとして、ぜひ紹介したいのが、7月11日から神戸市立博物館で始まった「河鍋暁斎の世界」だ。
河鍋暁斎(1831~1889年)は、幕末から明治時代に活躍した日本画家。狩野派の技法を基礎に、動物画や妖怪画、風刺画などを幅広く描き、卓越した画力と大胆な発想から「画鬼」と呼ばれ、海外でも高く評価されている。現在でも海外のコレクターにも人気の作家の一人だ。
そんな彼が描く”奇妙な世界”を本展では堪能できるだろう。
河鍋暁斎という男|酒好きで投獄経験ありのライブパフォーマー⁉

地獄太夫と一休(明治4~22年)
上図を見てほしい。艶めかしい雰囲気の遊女(=地獄太夫)と中年の男性がなんとも妙な笑みを浮かべている。描かれている男はなんと「一休宗純」、つまりあの一休さんなのである。
僧侶である一休が地獄太夫の遊女に魅了され、太夫の方が逆に悟りを開いているような様子を表している。この立場が逆転している妙な人間構図がおかしさであり、ある意味人間の愚の体現ともいえる。輪廻転生を意味する背景の蓮の花が、よりおかしみを際立たせているのも一興だろう。
このような作風の河鍋暁斎という男は、人前で即興の絵を描く「席画」の名手で、書画会を沸かせた人気絵師だ。大の酒好きでも知られ、酔って描いた絵が問題となり、逮捕・投獄された経験まで持つ破天荒な人物であったというのだから、なんだか納得してしまうのである。
獣と人、暁斎が描いた”生き物たち”を通して表現した風刺

閻魔大王浄玻璃鏡図(明治4~22年)
本展のアイキャッチにもなっているこの作品は、閻魔大王と亡者、鬼、妖怪たちを描いている。浄玻璃とは亡者の生前の行いを映し出す鏡であり、閻魔様はこの描か観に映し出された内容で亡者の善悪を判断したらしい。
この作品では、鏡に悪行が全く写っておらず、亡者である女性の生前の行いの良さが分かるのであるが…果たしてそんな洗礼潔白な人間がいるのだろうか?このまっさらな潔白さに閻魔大王も鬼たちも驚きな様子が笑いのポイントである。
この作品では、鬼や妖怪、女性が描かれているが、暁斎の作品の多くには、鴉や蛙、猫をはじめとする多彩な動物が登場する。愛らしく軽妙な姿を描く一方、動物に人間のような振る舞いをさせ、当時の社会や人々の欲深さ、滑稽さを鋭く風刺したのも特徴のひとつだ。
「人間味あるユーモラスな鬼」と「多面的に捉えた神や仏たち」

百鬼夜行図屏風(明治4~22年)
やはり河鍋暁斎といえば愉快な妖怪たちの描写は見ておくべきだろう。「百鬼夜行図屏風」は、さまざまな妖怪たちが夜中に練り歩く様子を描いた作品だ。妖怪たちひとり一人(人ではないが、助数詞の単位がわからない…)の顔の表情も細かく見てみると、暁斎のユーモラスな工夫が見て取れる。
暁斎が描く鬼は、恐ろしいだけでなく、酒を楽しむなど人間臭く愛嬌に満ちている。一方、神仏は荘厳な信仰の対象として描きながら、時には世俗的でユーモラスな存在として表現しており、その視点は実に多面的である。
この奇妙で不穏で、なんだかユーモアに溢れた河鍋暁斎の世界を是非楽しんでほしい。本展は9月23日まで。
展覧会名:ゴールドマンコレクション 河鍋暁斎の世界
会期:2026年7月11日~9月23日
会場:神戸市立博物館
公式ホームページ:https://kyosai2026.exhibit.jp/
ライター:石倉佳奈
広告代理店で6年間営業マンとして勤務した後、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在はSEOライティングやインタビューライティング、イベントディレクターなどさまざまな仕事を請け負うフリーランスライターとして活動中。日本全国の美術館と博物館を制覇すること、ヒマラヤマーモットを飼うことが今の夢。
