映画におけるシチュエーションとは/『マインドハンター』

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 私は、「面白い映画」とは、シチュエーションの優れた映画だと思っている。ここで言う「シチュエーション」の定義とは、たとえば『ダイハード』における、テロリストの占拠する高層ビルにひとり残された刑事……という大枠のあらすじとは別の、より細かい単位である。『スパイダーマン』であれば、ヒロインのメリー・ジェーンと、宙吊りになったピーター・パーカーがキスをする場面。正しい単位で言うならば「シーン」だが、ごく普遍的なキスというおこないに、ある一つの状況を付け加える(作り手の)意思を、私は「シチュエーション」と呼んでいる。あくまで私がそう呼んでいるだけで、広く知られている概念ではないことをご了承いただきたい。



 私が敬愛する「アメリカ映画」が面白いのは、このシチュエーションの組み方がうまいからではないかと踏んでいる。ハリウッドの娯楽映画における、「頭を空っぽにして見られる」なんて言われがちな、面白いけど大味で分かりやすいという風潮は、娯楽映画が娯楽に努めた歴史によるものだろう。それにしても、「頭を空っぽにして見られる」というフレーズは嫌いだ。鑑賞態度は自由にすればいいし、肩ひじ張らずに楽しむのが一番だとは思うが、娯楽映画だって、いくつも賞を貰うような社会派ドラマと変わらず、あらゆる繊細な手業を経て作られているわけでね。「頭を使う/使わない」という謎の基準が映画に存在しているならば、頭を空っぽにして見られた映画について、頭を空っぽにして見られた理由を考えてみてもいいだろう。



 話が少し脱線してしまったが、レニー・ハーリン(ヨダレの出る名前!私の人生において、アメリカ映画を象徴するような存在だ)の『マインドハンター』という映画がある。登場人物は少なく、地味なルックではあるものの、まさしく」シチュエーション」の優れた、めっぽう面白いアメリカ映画だ。



 FBI心理分析官になるための最終試験として、ノースカロライナの孤島に集められた候補生たち。マネキンによって道行く通行人が再現された架空の町で、試験官の用意した架空の事件を解決することが目的だったが、ひとりの候補生が、町に仕掛けられた罠によって死んでしまう。自分たちの中に犯人がいると確信した候補生たちは犯人捜しを始めるも、それをあざ笑うように一人、また一人と殺されていく……。



 まずもって、大枠のシチュエーション、つまりあらすじが抜群だ。こんな映画ばかりを見ていたいよ。それに加えて、前述した細かなシチュエーションの積み重ねがいかにも映画的で素晴らしい。犠牲者たちは、それぞれが罠によって殺されていくのだけど、その罠が発動する際のシチュエーションには常に創意工夫がなされていて、スラッシャーホラー的な「死にざま展覧会」が展開される。そのうえ「風が吹けば桶屋が儲かる」システム(あるひとつの物/事がスイッチとなり、次の展開を呼ぶ、映画においては必ず発生する概念。つまりマクガフィンだ)により、さらに面白い展開へと繋がっていく。まさに、私の考える面白い映画そのものなのだ。



 面白いシチュエーションはたくさんあるのだが、その中でも特筆すべきは、やはり最終決戦だろう。あの水中、そして水上でのバトルは、よくもこんなシチュエーションを思いつくものだと感心するばかり。こういった豊かなアイディアを求めて映画を見ている節がある。そうだ、シチュエーションとはつまり、アイディアなのだ。小難しい説明をしてしまったが、その正体はいたってシンプルであった。



 登場人物の限られた『マインドハンター』は地味なルックだとは言ったが、役者は豪華だ。まずは言わずと知れたハリウッドスター、クリスチャン・スレイター。『トゥルーロマンス』、『ヘザース』、『ブロークン・アロー』(世界一面白い)といった傑作で主演を務めたナイスガイ。近年は低予算映画への出演が多く目立った存在ではなかったが、『ニンフォマニアック』やNetflixの『ヒーローキッズ』なんかにも顔を出している。そして、ヒップホップMC兼俳優として知られるLL・クール・J。『トイズ』、『S.W.A.T』、テレビドラマ『NCIS:LA』への出演で知られる彼だが、個人的には『ディープ・ブルー』でのコック役の印象が最も強い。サメとの最終決戦に臨む際、自分の最後の姿としてビデオを撮影するのだが、コックである彼はオムレツのレシピをビデオに遺すのだ。この一点だけで、『ディープ・ブルー』を泣ける映画にカウントしている。



 他にも、名バイプレイヤー、クリフトン・コリンズ・Jr(日常的に映画に触れている人ならば、彼の顔を見たことがあるはずだ)、『トレインスポッティング』のシックボーイ役でお馴染みジョニー・リー・ミラー、伝説的な戦争ドラマ『バンド・オブ・ブラザース』のアイオン・ベイリー、そして『コールドケース』の主演として知られるキャスリン・モリスなど、魅力的な顔ぶれを眺めているだけで幸せというものだ。これがミーハーの映画の楽しみ方である。