長野県にある「阿智村」をご存知でしょうか。環境省が行った調査で「星が最も輝いて見える場所」に選ばれたこともある、日本で一番星が綺麗に見える場所です。
阿智村の「天空の楽園 日本一の星空ナイトツアー」ではロープウェイに乗って標高1,400メートルの山の頂上まで行き、手が届きそうなほどの距離で星空を満喫することができます。
東京育ちの私にとって、星を観察することはあまり馴染みがあるものではありません。一度でいいから、プラネタリウムのような満天の星空を実際の夜空で見てみたいなぁ…と夢見ていました。
冬の寒さがまだ残っていた2025年3月。満を持して、阿智村旅行を決行することにしました。空気が冷たく澄んでいるのできっと美しい星空になるだろう。阿智村の晴天率は約60%とのことだし、私は晴れ男だし問題ないだろう。と、期待だけを胸に当日を迎えました。

しかし、当日は雪でした。1週間前の天気予報からずっと雨または曇りだったので半ば諦めつつも「なんだかんだ当日は晴れるでしょう」と一縷の望みに懸けていましたが…。容赦なく雪が降り続いていました。
星を見に行くのが旅行の目的なのに、星がまったく見えないなんて意味がないじゃないか!!と、かなりやさぐれながらも阿智村に到着。移動中に降り続いていた雪は、私を嘲笑うかのような霙(みぞれ)に変わっていました。ホテルに到着する頃には足元はべちょべちょです。
このような絶望的な状況でしたが、ロープウェイは通常運転していました。夜になっても雪まじりの雨が降り続いていましたが、せっかく来たのでロープウェイで山の頂上までは行くことに。山頂はしっかり雪が降り積もっていました。標高があがれば雲より上に行けるかも…?という最後の希望も虚しく潰えたのです。

こうして結局、「星を見に行くだけの旅行」だったのに「星がまったく見えないだけで何もしない旅行」になってしまいました。あぁ、何のためにここまで来たんだろう…
という状況でしたが、宿泊したホテルがとても素晴らしかったです。品数豊富な売店で地酒と(長野なので)リンゴサイダーを購入。大きな露天風呂は他のお客さんが居なくて貸切状態。夕食は地元食材をふんだんに活用した会席料理で、ここで食べたエビの天ぷらは人生史上一番美味しかったです。

山頂で残念な思いをしましたが、美味しい食事を食べて気持ちの良い温泉に入り、自室で晩酌をしていると不思議と気分も変わってきました。
星を見れなかったのは非常に残念だけど、まだ「満天の星空を見る」という夢を追いかける楽しみが残ったじゃないか。この先の人生で「星を見に行ったのに雪だったんだよ」という笑い話ができるじゃないか。いつかまた阿智村にリベンジに来たときに、このホテルで最高の天ぷらをもう一度いただけるじゃないか。一緒に来た友人と、思い出深い晩酌ができたじゃないか。
旅行前までのやさぐれが嘘のように、清々しい気持ちで阿智村を発つことができました。夢は叶えるのが一番幸せですが、叶うまでの道のりもまた幸せな時間なのかもしれません。そんな素敵なことに気づかせてくれる「旅行」が、私はやっぱり大好きです。
ライター:あぐ