アンドリュー・ワイエスが描いた日常|日常を細密に切り取る作家の精神世界

· アート
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アメリカ出身の画家といえば誰を思いつくだろうか?


さまざまな女性を描いた印象派のメアリー・カサット?

抽象表現主義を代表するジャクソン・ポロック?

日本でも人気の高いポップ・アートのアンディ・ウォーホル?


今回は、戦後のアメリカで自身の日常を、精密に描き続けたアンドリュー・ワイエスに注目したい。ワイエスは、20世紀アメリカ美術を語る上で避けられない重要人物。10月3日からあべのハルカス美術館で開催が始まった「アンドリュー・ワイエス展心の故郷、忘れえぬアメリカ」より、この作家について紹介したい。

何にも分類できない?ワイエスが描くアメリカ

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「納屋の猫たち」(1993年/水彩/紙)


この作品を見て、みなさんはどう感じるだろうか?

きっと「光の表現が上手」「昔の田舎に住む農民の日常のようだ」「寂しげな感じがする」といったところだろうか?


ちなみにこの作品にはこのようなキャプションがある。


隣人であったカール・カーナーの家の納屋が描かれています。カールの妻アンナが荷車を押し、納屋から出ていく様子が奥の方に見えています。作品名にある猫たちは例によって描かれておらず、餌の入れ物を描くことで表しています。その猫たちは納屋に出没するねずみたちを退治するために、家のなかではなく外で飼われていました。(あべのハルカス美術館『アンドリュー・ワイエス展』より)


見りゃ分かる!!


決して解説ではなく、描写の説明に徹しているのがわかる。


筆者が言いたいのは、アメリカの画家といえど、アンドリュー・ワイエスの作品には”アメリカらしさ””アメリカといえば”といった一般的なイメージ、もしくはステレオタイプなどが感じられないということだ。


ワイエスの作品はこのような日常の描写を細密に描いた作品がずっと続く。技量があるのは素人目で見てもわかるが、”ただ上手な作家”とは一味異なるワイエスの魅力とはなんだろうか?

アンドリュー・ワイエスとはどんな人物?

まずは作家について大まかに紹介したい。

アンドリュー・ワイエス(1917〜2009)は、20世紀アメリカを代表する写実主義の画家。著名な挿絵画家である父N.C.ワイエスのもとに生まれ、幼少期は病弱だったため学校には通わず、家庭で教育を受けながら父から絵画技法を学ぶ。

生涯を通してペンシルヴェニア州とメイン州を拠点に、身近な人々や何気ない日常の風景を描き続けたワイエス。第二次世界大戦後、抽象表現が台頭するアメリカ美術界においても流行に左右されず、独自の写実表現を追求し、現在のスタイルになったとされる。

父の突然の死を経験したことで、生と死やこの世の儚さを強く意識するようになったとされ、その作品には、光と影、静けさの中に息づく生命、目には見えない人々の気配が繊細に描き出されています。何気ない風景に自身の記憶や感情を重ねた作品の数々は、まるで彼自身の人生を綴った私小説のようでもある。

キーワードは「生と死」、そして「境界」

ワイエスの人生をなぞると、キーワードとして出てくるのが「生と死」、「境界」だ。自身は幼い頃から病弱で死の危機を感じていたり、青年の時には父親を亡くしている。さらに第二次世界大戦を経験していることで、『死』が身近に感じていたのだ。結果的にワイエス自身は長寿ではあるが、その死生観から、この世の儚さや無常を悟るようになり、独自の表現に辿り着く。しかし、特徴として挙げられるのは、ワイエスの作品には直接的に死を主題として扱っていないことだ。

むしろ、『境界』が主題といえる。ワイエスの作品でみる『境界』とは、窓やドア、石垣、水路の淀みに張った氷などがそれを指す。

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「薄氷」(1969年/テンペラ/パネル)


境界を隔てて、二つの世界を「生と死」としている。または静と動でもある。光の表現も影の描写もワイエスならではのリアリズムといえるだろう。

ワイエスは何を描きたかった?

死生観や『境界』といった精神的な主題を、実際の身近な日常の切り抜きに投影している。

ワイエスらしく、”死が身近”というメッセージとも捉えられるだろう。


ワイエスが描きたかったのは精神世界的な目に見えないものだろうか、それとも、暮らしや生活といった「生」を感じるものだろうか。それは、ワイエスの作品をじっと観察するしかわからないのかもしれない。自身の精神か、目に見えるリアルな世界か、もしくは愛か。





展覧会名: アンドリュー・ワイエス展

会期:2026年10月3日(土)~ 12月6日(日)

会場:あべのハルカス美術館

公式ホームページ:



ライター:石倉佳奈

広告代理店で6年間営業マンとして勤務した後、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在はSEOライティングやインタビューライティング、イベントディレクターなどさまざまな仕事を請け負うフリーランスライターとして活動中。日本全国の美術館と博物館を制覇すること、ヒマラヤマーモットを飼うことが今の夢。