物語が映画を求める/『どろどろアンドロイド娘』

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 2026年9月、U-NEXTの見放題ラインナップにトロマ・エンターテインメント作品が27本追加された。思えば、私にとって今やインフレにすらなりつつあるU-NEXTに初めて入会したのは2020年、同じようにトロマ作品が一斉入荷されたのがきっかけだ。トロマの看板である『悪魔の毒々モンスター』シリーズをはじめとするオリジナル作品群はDVDレンタルなんかで見たことがあったけれども、『テラー・ファーマー』が見られるのが嬉しくて……。それまで友人のファミリーアカウントに子として入れてもらっていたのだが、親アカウントしか見れないR-18指定の『テラー・ファーマー』を見るために独立、月額の2,400円にも最初は抵抗があったが、今ではすっかり「意思に関係なく払わなくてはならないもの」と、光熱費のように捉えている。



 トロマ・エンターテインメントの、案外お上品なロゴが冒頭に入った作品は一概に『トロマ映画』と呼ばれるが、「トロマ制作」の作品とは別に、「トロマ配給」の作品も多数存在する。たとえば『サウスパーク』で知られるクリエイター、トレイ・パーカーによる長編処女作『カニバル!ザ・ミュージカル』だったり、『となりのトトロ』をアメリカでリリースしたのもトロマである。最も長く続いているインディペンデント・フィルム・スタジオというだけあって、映画界への貢献は計り知れない。



 というわけで今回はトロマ配給作品であり、今年9月にU-NEXTに追加された『どろどろアンドロイド娘』の話をさせていただきたい。人づてにスゴイ映画だと聞いてはいたが、まさかU-NEXTで見られるなんて!今回のトロマ27作品入荷事件で、最も私が心躍ったのは本作と『ザ・テイント』であった。



 映画のあらすじを文章にするのは、なかなか難しいものだ。書き手としての力量がはっきり出てしまう。しかし、『どろどろアンドロイド娘』のあらすじを書ける人間はそういないだろう。バイクに乗った男性2人組が、謎の任務に挑み、謎の死に方をするアバンタイトルは、「導入」というよりも「イメージ映像」と言ったほうが近い。それほど、全体のトーンから独立している。そもそも「導入」として寄与する物語自体がほとんど存在していない為、すべてのシーンが平等に浮いているとも言える。



 しかし、この浮遊感が、言いようのない幸福を生み出している。まさに夢のような映画、というか、夢のなかの映画。ソリッドなケイパー映画風味のアバンタイトルのあとは豪邸を舞台にしたエロティックな群像劇が展開されるのだが、映画の大部分を占めることになるこのドラマは、しかし夢のなかにいるばかりに、正体不明の人物や、理屈のない突然の出来事によってちぐはぐに構成される。そのうえ、化粧品のCMみたいなロマンスや、気合いの入ったゴア、やたらに長いセックスなど、「ジャンル」を無邪気に横断していくものだから、より浮遊感が増していく。結局これはどういう映画なんだ。ホラーか、コメディか、それともソフトポルノか?



 実際、監督のヘンリー・サラって人は、本作以外はほとんどポルノしか撮っていない。ならばエロティックぶりにも納得だが、しかし、彼はスケベな手つき以外にもたくさんのものを持っている。たとえば人工知能ジョージにまつわるシーンの数々はSFとしてアイデアに溢れているし、そのジョージと主人公ジェシカの会話も心癒される。特にジェシカが自らの一目惚れをジョージに相談するシーンは本作どころか、あらゆる映画の中でトップクラスに美しい。「それっぽいもの」を照れずにやる無邪気さが、逆説的に作品の純度を高めている。



 かと思えば最終盤、美しさなどみじんも存在しない鮮烈なオチが待っている。なんて刺激的な映画だろう!最後まで物語らしい物語は存在しないが、アイデア豊かでロマンティックなディテールの数々に目を奪われ続けていれば、決して退屈することはない。映画が物語を求めるのではなく、物語が映画を求めるのだ。『どろどろアンドロイド娘』は、物語を振った。本作の仕上がりを見れば、それは正しい選択だったとしか言いようがない。