私がレンタルショップに入り浸っていた平成末期、店頭には数々の”便乗映画”が並んでいた。ヒットした映画のタイトルを文字ったり、ジャケットデザインを似せたり……かの『ナポレオン・ダイナマイト』も、発売当初は『バス男』という、『電車男』に便乗したタイトルだったのだ。過去の記事でも話したように、このタイトルには批判が集まり、発売元の20世紀FOXが邦題を改め、原題そのままで再販売するという事態に至ったのだが、その他の幾多とある”便乗映画”たちと比べれば、『バス男』なんてカワイイものだ。元ネタの『電車男』と間違えて手に取る人はいないという点で、少なくとも悪質なタイトルではないと言えるだろう。
じゃあ悪質なタイトルとは何かというと、これも例を挙げればキリが無いが、『クライモリ 禁猟区』なんかは今も被害者が出ているタイトルと言えるだろう。かの人気(ですよね?最近リブートもされましたし。私も大好きですし)ホラーシリーズ『クライモリ』と同タイトルに構えているが、なんと本家とは一切関係のないイギリス映画なのだ。日本の配給会社が、勝手に『クライモリ』と名乗ってしまったのだ。未だに、『禁猟区』をクライモリシリーズの一篇だと思っている人も多いはず。だって、『クライモリ』とハッキリ書かれているのだからね。まあ、『クライモリ 禁猟区』自体は割と面白い映画(現時点でのFilmarks評価は2.6。顰蹙を買うようなタイトル・ジャケットでのマイナス・スタートにしては高いスコアだ)ではあるし、私は騙されるのは嫌いではない。輸入してくれたことに感謝しよう。ちなみに、配給はタキ・コーポレーション。『ファック・アンド・ザ・シティ』、『悪魔と天使』、『スピーシーズ・デビル』など、タキ配給の便乗タイトルをよく店頭で見かけたのを覚えている(私が見た中では、『エイリアン・パンデミック』が傑作!)。私がタキの名を認識してからほどなくして倒産(その後、オデッサ・エンタテインメントに吸収される格好となっている)したからなのか、店頭に残ったタキ映画たちはどうも魅力的に見え、ひいきの配給会社のひとつとなった。タキの傑作群を、どうかサブスク配信してくれないものか……。『ストライク・バック』なんか、絶対みんな好きだよ……
前置きが長くなってしまったが、ふとこんなことを思い出してしまったのは、今日TSUTAYAでこんなタイトルを見かけたからだ。懐かしくて、思わずレンタルしてしまった。

※映画ジャケットより引用
数ある便乗映画の中でも、『SAW』に便乗した映画というのはとにかく多い。列挙するにもキリがないのだが、その中でも代表格と言えるのが本作『9INE ナイン』(タイトル自体はシンプルで独立しているという点で、”悪質”ではないだろう)だ。学生時代に見てだいぶ面白かったと記憶しているが、今見ても十分に楽しむことができた。
ある密室に集められた9人の男女が、覆面を被った謎の男に「お前たちがここに集められた理由を考えろ。答えられるまで、10分毎にひとり殺す」という条件を突き付けられる、といったお話。まさにソリッド・シチュエーション・スリラー。SAWに便乗して売り出したくなる気持ちもわかる。ちなみに、本編の密室にトイレは存在しない。ジャケットでトイレを捏造している。
内容はといえば、スリラーとしては殺し方が拳銃のみで地味すぎるうえ、いかにも脚本の映画というか、台詞の応酬を捌くばかりで作り手が画面をまったく必要としていないきらいがあるのだが、お話が面白いんで退屈はしない。キャラクターも魅力的だ。いや、キャラクターが、というより、役者陣が魅力的なのだ。
特にウィリアム・リー・スコットは、彼の出演作である『バタフライ・エフェクト』や『アイデンティティー』を見たとき、顔が好きだと感じたのを覚えている。それゆえ、私にとっては、ひいきとまではいかずとも、なんとなく特別な存在ではあって、たまに「今は何をしてるんだろう」とIMDb(世界最大の映画データベース)で検索してみたりする、そんな俳優だ。
神父役マーク・マコーレイは色んな映画でしょっちゅう見かける顔で、なじみの深い存在だ。私の中で、ジャック・ニコルソン-マイケル・アイアンサイド-マーク・マコーレイというラインがある。意味が分からないだろうが、あ~わかるわかると頷く人が日本にひとりでもいるのならば、それが私の運命の相手である。
そして何より、メリッサ・ジョーン・ハートである。かの人気ドラマ『サブリナ』にて、主人公の魔法使いサブリナを演じた俳優だ。まあ、私は見たことがないし世代というわけでもないのだが、出演者の中で最も有名なのは彼女だろう。彼女の妹であるエミリー・ハートも出演していたそうなのだが、どれが彼女なのか分からなかった。
ちなみに、ダニエル・ボールドウィンも10秒ぐらい出ていた。彼は色んな低予算映画に出演しているが、10秒しか出ていないのは珍しいのではないか。催涙スプレーをかけられ、目を押さえて痛がっていた。せっかくイイ顔をしているのにもったいない。アレック、ダニエル、ウィリアム、スティーブンのボールドウィン4兄弟は、顔はソックリなのにそれぞれに独自の色気があるというか、たとえばアレックと同じ役はダニエルにはできないだろうし、ウィリアムと同じ役をスティーブンはやれないだろうという、そんな魅力がある。皆さんはどのボールドウィンがお好きでしょうか?
ライター:城戸