窓がないトロッコ列車に乗ってガタガタと揺られながら、ゆっくりと緑あふれる山あいを進んでいく―
私が普段使う電車は「早く・快適に目的地へと向かうための移動手段」です。かに揺れないか」「どのくらい速く進めるか」「快適に過ごせるか」を追求した電車の開発が進んでいます。
そんな時代に敢えて、ガタガタ揺れる・ゆっくり進む・雨や虫が入り込む列車に乗ってきました。高知県の左側「窪川駅」から愛媛県の下側「宇和島駅」までを結ぶJR予土線の特定の時間帯に走る「しまんトロッコ」です。

一両目は普通の電車で、二両目だけこのようなトロッコ列車になっています。トロッコ列車の指定席券を持っている人のみ、「土佐大正駅」から「江川崎駅」までの約1時間の区間をこのトロッコ列車で過ごすことができるのです。

「利便性が追求される現代に、敢えて不便さを体験する」ということも旅行の楽しみ方の一つだと考えています。一つの椅子で二人分の席になっており、非常に狭いです。知らない人とも仲良くなれそうな距離感。昔はこれが当たり前だったのかな…などと思いを馳せたりするのも良いでしょう。

最大の特徴でもある「窓ガラスがないこと」のメリットがこちら。美しい景色が、隔たることなく目の前に広がります。光が反射しないので写真を容易に撮ることができます。山道を進んでいくので、伸び切った植物が窓側に座る私の肩を撫でることもありました。停車中に虫が飛んでくることもありました(羽音にビビる私)。途中で小雨も入り込みました。雨と土のニオイ、緑のニオイも感じました。普段の電車では絶対に感じることができない体験をすることができたのです。

乗車したのは蒸し暑い8月でしたが、トンネルに入ると「涼しい」と感じました。そして想像通り、音が反響してウルサイ。電球はあたたかみを帯び、車内はムーディな雰囲気へと早変わりします。窓ガラスがない電車でトンネルを通過した経験が今までになかったので、こんなに色々なことを感じるとは思ってもいませんでした。新しい体験は何歳になってもワクワクを与えてくれますね。
そんな素晴らしい体験ができる「しまんトロッコ」の乗車ですが、致命的なデメリットがこちら。

約2時間30分の乗車時間中、トイレに行くことができません。1時間に1回はトイレに行くことが習慣になっている私にとって―トイレに行けない環境に限って腹痛を催す私にとって―これはかなり厄介な事情でしたが、今回は事前準備のおかげで危機に陥ることなくやり過ごすことができました。
最後に私が行った事前準備をご紹介してお別れとしましょう。機会があればぜひ「しまんトロッコ」で特別な旅情を感じてください。
- 窪川駅を出発するギリギリまでトイレに籠もり、すべてを出しきる。
- 車内販売で飲食物を何も買わない。
- 飲み物をできるだけ摂らないようにする。
- 旅行前から善行を積んでおき、乗車中に尿意・腹痛がないことを神に祈る
ライター:あぐ