辛辣すぎる大人の風刺童話。『動物農場』へようこそ!

· 教養

ジョージ・オーウェルといえば『一九八四年』が有名で、人生で一度は読んでおきたいけど……ディストピア文学、なかなか読み切れないんだよなあ……(アトウッド『侍女の物語』で苦戦しているのです)とちょっと悩みながら図書館を歩いていたら、『動物農場[新訳版]』が目に入りました。

 同じオーウェルでもこっちならなんとか読めるのでは?(本も薄いし!)と思い、読んでみました。話は長くないのに致死量の風刺が効いてる! 面白いけど笑えない! そんな一冊を、今回はご紹介します。


 舞台はどこにでもありそうな農場。ところがそこに住まう動物たちは、飲んだくれの牧場主(人間)ジョーンズ氏を追い出して、すべての動物は平等である、というモットーの元「動物農場」を設立しました。

 いくつかの戒律を定めて、「動物主義」の実践に励みだします。牧場の壁に書かれた戒律とはこんなものです。


1.二本足で立つ者はすべて敵。

2.四本足で立つか、翼がある者は友。

3.すべての動物は服を着てはいけない。

4.すべての動物はベッドで寝てはいけない。

5.すべて動物は酒を飲んではいけない。

6.すべての動物は他のどんな動物も殺してはいけない。

7.すべての動物は平等である。


 そして一匹の老いたブタが夢で観た「イギリスの獣たち」という歌を国家のように歌い、人間の文字を学び、自ら農場経営に乗り出すのです。

 そして最初のうちはうまくいっていたのですが、知力のあるブタ達、スノーポールとナポレオンが率いるこの牧場は「共和国」になります。

 しかし、動物の為の戒律を作ったり、教育や風車の建設の計画をすすめるスノーボールとナポレオンが決別し、スノーポールは追放され、ナポレオンによる「独裁政治」がはじまっていくのです。

 

 人間の政治の暗部を観ているようですね。いやまさにこれは人間の政治の暗部に他なりません。しかしまさかそれを農場のブタたちがそれをやってのけるとは…と暗澹たる気持ちになります。


 牧場で買われている動物達にも、盲目的にブタたちに従う者、人間と共に生きるために牧場から出ていく者、どっちつかずの態度を決め込む者、我関せずのスタイルで何もしない者、などなど多種多様です。

 これもまた人間社会の縮図だなあ、とその秀逸さには驚く、というかなんかうっすら背筋が寒くなる感じさえするのです。


 そして独裁者となったナポレオン(ブタ)ですが、丸で秘密警察のようにイヌたちを率い、意に染まない者達を「かつて追放したスノーポールの仲間だ!」と決めつけ粛清したり(牧場が死屍累々になる様には寒気すら覚えます。しかもどうやらいつの間にか「6.すべての動物は他のどんな動物も殺してはいけない。」を『6.すべての動物は他のどんな動物も「理由なしに」殺してはいけない。』に書き換えた模様……)と、まさに独裁者そのものです。


 かつての牧場主の家を占拠し、姿を見せず、全てを部下にやらせるその姿はまさに人間の独裁者スタイル。

 そしてこの動物牧場の戒律では『二本足の生き物は敵』だったはずなのに、とうとう近隣の牧場主(もちろん人間)と様々な取引をするまでに至ってしまいます。


 当初はまあそれなりに順調だったはずの動物牧場の幸福度は、このあたりから目に見えて下がっていきます。いつの間にか、ブタたちに都合の良い様に書き換えられていく戒律、どんどん特権階級と化していくブタたち(またしても戒律を書き換えて飲酒までしてしまうのです)そして、壁に書かれていたはずの戒律はたったひとつになってしまいました。それも、


すべての動物は平等である。

だが一部の動物は他よりもっと平等である


 農場の仕事を管理するブタたちはみんな、前足に鞭を持ち、新聞を購読し、ナポレオンはといえば、人間の服を着て歩いているのです。そして動物たちは「みんな奴隷のように」働いていたのですが………


 結末がどうなるかは、ここでは伏せておきましょう。動物たちは蜂起するのか、ブタたちは改心するのか、それとも……?


 とまあ、権力や社会に対する風刺が効き過ぎていて「うわあ……」となること請け合いの一冊なのです。


 いつの間にか書き換えられる法律、一部の特権階級がどれだけのさばっていても粛々と働く農場の動物たち、自ら特権階級と称しだしたブタたち。

 人間のやることを真似て、人間のようになっていくおぞましさ。そして、そんな強権的なブタたちに従わざるを得ない牧場の動物たち。


 これ出てくるのが全員動物で書いているからいいけど(よくない)、もしも本当に全員人間だったら本当に怖い話になるな……とゾッとする、そんな「お話」です。


 そして作者のジョージ・オーウェルはこれを、当時のソビエト連邦を風刺するつもりで書いていたそうです。それも、ほとんど誰にでも理解できて、他の言語にもすぐ翻訳できる「お話」としてです。

 しかしながら、その「お話」は時を超え、しっかり今の世情にもうっすらと繋がっているのが何とも恐ろしいところです。


 統治というのは一体何なのか、「法律に従う」というのはどういうことか。そして、自分達を苦しめる政治家達の監視の下に置かれてしまった場合、一体どうすればいいのか。それでも何となく生きていけてしまう場合、それに甘んじていても良いのか。

 色々と考えさせられてしまう一冊でした。

 致死量の皮肉が効いているけれど、さっくりと読める不思議な一冊。名作です。


 そして、私たちの多くは有権者であり、きちんと上の方が『独裁的』になっていないか、本当はしっかり目を光らせる必要があるのだ、何かをしないと何も変わらないのだ、ということを改めて突き付けてくる一冊。

 政治に興味があってもなくても読めるし、読んだ後には色んな感想が出てくること請け合いです。読書会とかに良さそうですね!


 時折、政治というのは一体なんだろう………と考えることが多い(気がする)昨今、お手元に一冊置いておいても良い本かも知れません。


@akinona



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