そういえばあの結末、どうなってたっけ?〜『そして誰もいなくなった』を読む

· 教養

 ずっと昔に読んで、どういう結末だったか忘れてしまった小説ってありませんか。私はたまたま先日アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を、古本市で手に入れたのです。以前この作品を読んだのは中学生くらいの頃だったような気がします。


 私は『名探偵コナン』『金田一少年の事件簿』で育った世代なので、もしかするとそういった後発作品と記憶がごっちゃになってはいやしないか、というくらい、『あるある』に満ち満ちた元祖ミステリーですね。


 さて、物語は孤島「兵隊島」(本当は「黒人島」なのですが、黒人を表す『Nigger』という単語が差別に当たるとして使えなくなったので、いつの間にかこのような名称になったのです)に招かれた招待客達が乗っている電車の中からスタートです。

 元判事、体育教師、元陸軍大尉、老婦人、退役将軍、医師、青年、元警部などなど、役職も立場も様々です。

 けれど招待主の姿は見えず(執事はいます)、お互いがお互いをなんとなしに心の中で警戒しつつ夕食の席へ。

 そこで、ここにいる全員が過去に、何かしらの罪(殺人など)を犯してきたことが『謎の声』によって暴かれてしまい………というのが物語の始まりです。


 謎の声の正体は隣室にあったレコードと拡声器だったわけですが、一同の招待主である「U.N.Owen」氏。ちょっと文字れば「Unknown」、すなわち「名無し」を意味することに、一同は気づいてしまいます。


『どうやらなんだかやばいやつに招待されてしまったぞ』

『ここにいる全員もどうやらなんだかいわくありげだぞ』


 そんな疑念が渦巻く招待客一行、姿の見えない招待主、いわくありげな孤島、そして部屋に飾られている意味深な童謡………。そう来たら、何も起こらないわけがありません。

 あっさりと、この中でも一番生き生きしていた青年が、部屋にあった毒入りの飲み物を口にして、皆の前で死んでしまうのです。

 これを皮切りに、どんどんあれやこれやの方法で、招待客一行はどんどん殺されていってしまいます。それも、部屋に飾ってあった以下の童謡の歌(p51)のように。


 小さな兵隊さんが十人、ご飯を食べにいったら

 一人がのどをつまらせて、残りは九人


 小さな兵隊さんが九人、夜更かししたら

 一人が寝ぼうして、残りは八人


 小さな兵隊さんが八人、デヴォンを旅したら

 一人がそこに住むって言って、残りは七人


 小さな兵隊さんが七人、まき割りしたら

 一人が自分を真っ二つに割って、残りは六人


 小さな兵隊さんが六人、ハチの巣をいたずらしたら

 一人がハチに刺されて、残りは五人


 小さな兵隊さんが五人、法律を志したら

 一人が大法官府に入って、残りは四人


 小さな兵隊さんが四人、海に出かけたら

 一人がくん製のニシンにのまれて、残りは三人


 小さな兵隊さんが三人、動物園を歩いたら

 一人が大きなクマにだきしめられて 残りは二人


 小さな兵隊さんが二人、ひなたに座ったら、

 一人がやけこげになって、残りは一人


 小さな兵隊さんが一人、あとに残されたら

 自分で首をくくって、そして、誰もいなくなった


(前述したとおり、当初は「黒人島」にある『十人の黒人』という童謡なのですが、差別に当たるとして『兵隊さん』になったものです。よってここは「昔読んだのとなんか違うな?」という人もいらっしゃると思います)


 そして、一人殺される度に、テーブルの真ん中に置かれている陶器の人形が減っていくのです。まさに、「見立て殺人」(何かの物語(童謡、文学作品、神話など)や特定のテーマになぞらえて、殺人が装飾・演出される事件のこと)「クローズドサークル」(外界から隔絶された孤島、雪山、豪華客船、密室などの閉鎖空間で発生する殺人事件や謎を題材にしたミステリー作品のジャンル)の元祖ですね。


 そして、この『そして誰もいなくなった』は全員の心の声がきちんと描写されていくタイプのお話です。それなのに、犯人はわからない。

 1回読み終わったら、もう一度最初から読んで、作者の言葉選びの巧みさに仰天するしかない、本当にすごい手腕が駆使されているミステリーになっています。

 やはり、『元祖』と呼ばれるだけはあるのです。


 更に、この作品には戯曲版もあるのですが、先述した『十人の黒人』という童謡には実は二通りバージョンがあるように、それに合わせて結末が違っているそうです。


 なお、これを読んでいる私を見た夫が、『僕は映画版をいくつか観たけど、確かどれも結末が違っていたような……』と言っていました。気になった方は是非とも視聴してみてください。

 有名な作品ゆえに、色んな国で映画化、ドラマ化されている模様。そしてそのたびに、展開や犯人が少し違ったりしているようです。

 つまり原作を読んで結末と犯人を知っていても、ちっとも油断は出来ない、ということですね。


 ミステリー、というのは、言うまでもなく、読者をどれだけドキドキさせるかがとても大事なジャンルだと思います。そして「ミステリーの女王」とまで呼ばれる名手アガサ・クリスティの代表作である『そして誰もいなくなった』。

 読んだことがあるけどもう忘れちゃったな、誰が犯人だったっけ、とか、映画やドラマは観たんだけどな、とかそういう人にもおすすめできる1冊です。


 静かな冬の夜というのは、ミステリーを読むには絶好のチャンスです。


 是非一度手に取って、「ミステリーの女王」アガサ・クリスティの掌の上で踊ってはみませんか。そして、『ああ、そういうことだったのかー!!!』という驚きを味わってみるのも良いのではないか、と私は思うのです。


@akinona


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