先日11月16日に閉幕した滋賀県・近江八幡旧市街地、長命寺、沖島を舞台に国際芸術祭 BIWAKOビエンナーレ2025 “流転〜FLUX” を見て来ました。総合ディレクターは中田洋子氏。歴史的建築や空き町家を再生しながら、「すべては変化し続ける」という“流転”の概念を通じて、地元のまちとアートが融合する空間を創出しようという意欲的な企画です。
地域の再生と表現の対話を両立させる背景が、今回の芸術祭を特別なものにしています。
今回は、実際に見てきた作品の中から気になったものをいくつかピックアップして紹介したいと思います。
M表層 — 本郷芳哉
彫刻家 本郷芳哉 は、BIWAKOビエンナーレ2025において旧伴家住宅(近江八幡旧市街地)を舞台に 《表層-The Accumulated Days》 を出展しました。 (biwacommon)
彼の制作の根底には「人間が生きることとは何か?」という根源的な問いがあり、素材と対話を重ねる時間そのものを思索の場にしています。
特にこの作品では、アルミ板を積み重ね、熱による変形を用いて制作された層が、光を受けて琵琶湖の水面のようにきらめき、時間の蓄積や揺らぎを身体感覚として伝えます。
完成された作品は、まさに “流転” の概念を物質レベルで体現し、観る者に「存在」と「時間」の重なりを感じさせる静かな詩を語りかけます。
チョウウズマキ — 赤松音呂
ガラスや磁石、デバイスを使った実験的な作品で参加した 赤松音呂(AKAMATSU Nelo) の 《チョウズマキ》 は、琵琶湖ビエンナーレの近江八幡エリアに設置されていました。
作品はガラス容器と磁石、水という素材を精巧に組み合わせ、制御装置やコントローラーによって磁力の変動や水の動きを操作します。磁石の力と水の波紋が予測不能に交差しながら、まるで生き物のようなリズミカルな動きを見せます。
この作品は「流転」のテーマを、物理の法則と制御のはざまでも体現しており、技術と自然、秩序と偶発性が同時に作用するダイナミックな空間を生み出していました。
長命寺と現代アート
今回のビエンナーレでは、標高約250メートルの琵琶湖を望む 長命寺 が初めて展示エリアとして加わり、新たな対話の場となりました。
長命寺という歴史的・霊的な場所は、アーティストにとって “伝統” と “時間” を感じさせる強力なパワースポットで、静かな寺院の石段、苔むした境内、参道の空気感が、現代アートの制作意図と響き合います。
寺の空間で展示された作品は、自然光や建築の構造を活かしたサイト・スペシフィックなインスタレーションが多く、「変化し続ける時間」と「永続する信仰」のあわいを鋭く投げかけるものでした。これは、ただアートを置くだけではなく、場そのものを作品の一部に取り込む挑戦でもあります。
まとめ
BIWAKOビエンナーレ2025 “流転〜FLUX” は、歴史ある町並み、寺、そして湖上の島という多層的なロケーションを生かしながら、「変化」と「生成」を問うアートを展開した芸術祭でした。
本郷芳哉の金属彫刻は時間の積み重なりと存在の深みを、赤松音呂の《チョウズマキ》は磁力と水の揺らぎによる予測不可能な運動性を通じて「流転」を体現。加えて長命寺エリアの神聖で静かな空間は、現代アートとの対話によって新たな意味を宿しました。
地域再生を視野に入れつつ、日本の伝統的建築や自然との共鳴を通じて、鑑賞者に五感で時間の流れを味わわせるビエンナーレ。これは単なるアート祭以上の体験であり、“流転”というテーマを文字通り体現した、先鋭的でありながら深みある探求の場だったと言えるでしょう。
展覧会名:BIWAKO BIENNALE2025流転inFLUX
会期:2025年9月20日~2025年11月16日
会場:滋賀県近江八幡市 琵琶湖ビエンナーレ会場
ライター:石倉佳奈
広告代理店で6年間営業マンとして勤務したのち、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在は美術館で看視員をしながらフリーランスライターとして活動中。国内の美術館を全制覇するのが夢。
