
大阪中之島美術館で6月21日から始まった「日本美術の鉱脈展」が話題になっています。あえて”知名度が低い作品”が選ばれた本展では、今後の日本美術の新たなムーヴメントを巻き起こすかもしれないクセ強で個性的な作品が並びます。
あらゆる可能性を秘めた作品の中から特に注目したいものをピックアップしてご紹介します。
若冲は知られざる鉱脈だった⁉
知名度の低い作品のラインナップかと思いきや、展示室に入るとすぐに伊藤若冲(1716ー1800)の作品が目に飛び込んできます。この配置は本展の狙いから、意図的に工夫されたものなのです。
伊藤若冲はいまや現代日本において有名な作家のひとりですが、2000年以前では若冲も一般的には”知られざる鉱脈”のひとりでした。2000年に京都国立博物館で開催された展覧会をきっかけに爆発的なブームを巻き起こし、現在もなお高い人気を誇ります。
平成1桁生まれの筆者からすると、すでに教科書に掲載されていた若冲が、たった25年前まで無名に近い作家であったことに驚きを隠せません。しかし、当時の若冲のような、まだ埋もれている新鉱脈が多く存在しています。
本展では改めてその鉱脈を掘り起こし、国の宝となり得る作品を発表し、今後の日本美術史に定着していくことを目標としています。若冲の作品を最初に配置したのは、ネクストブレイクの可能性を大いに秘めた作品を、鑑賞者の眼でじっくり確かめてほしいという狙いがあったからだと考えます。
【新発見】若冲✖応挙コラボ作
伊藤若冲と円山応挙のコラボ作が新しく発見され、本展の目玉となっています。伊藤若冲「竹鶏図屏風」(1790年以降)と円山応挙「梅鯉図屏風」(1787年)は、若冲と応挙がそれぞれ一隻ずつ手がけた二曲一双の作品で、まるで豪華なコラボ扉絵のようです。
若冲は竹と鶏、応挙は梅と鯉を描き、互いを見合っているような雰囲気を感じます。竹と梅、陸の鶏と池の鯉、それぞれが交わり切らずマーブルのような融合を、金箔の屏風がうまくまとめています。
室町から現代まで 新たなムーヴメントを生み出すのは?
本展は第1章から7章で構成され、それぞれ時代の変遷とともに奇抜な作家・作品が紹介されています。
第1章では若冲をはじめ、曾我蕭白や長沢芦雪の掛け軸や屏風、巻物が並びます。その中で異彩を放つのが、近年発見された岩佐又兵衛の作と伝承される「妖怪退治図屏風」(17世紀)。武士と妖怪たちの大戦争が始まる瞬間を捉えた勢いのある作品で、八曲一隻というビックサイズで、豊かな色彩が特徴です。ぜひ単眼鏡などで細部まで観察していただきたい。

【第3章:素朴絵】…これって下手だよね
?
15~16世紀では、幼稚美がフィーチャーされた時代でもあり、世界的にも早くにその文化があったとされています。幼稚美、おそらく”デフォルメされたキャラクター的なKAWAII”という感性だと思われます。ここで注目していただきたいのが「築島物語絵巻」(部分)(室町時代(16世紀)巻子(二巻)日本民藝館)です。
本作は、平清盛が新都福原の沖に築港する際、工事がはかどらないため30人の人柱を立てたのですが、その際、清盛の侍童松王が一人身代わりになり海に沈み、築島(人工島)は完成したとされる伝説を上下二巻にわたり描かれた絵巻です。
簡略化された人物や情景に、ゆるキャラのようなかわいらしさが感じられ…ますか?
筆者は「これって…下手なだけでは??」と衝撃が走りました。伝説の様子を書き記した文字はすごく綺麗なのがより、絵の下手さを助長しているようで面白かったです。
【第6章:仏画】Oh!Crazy
!
第6章「江戸幕末から近代へ」では仏画のフィールドになっています。加藤信清の「五百羅漢図」(1792年/一幅)は文字の集合体で制作された仏画で、その細やかすぎる作風は「ひっ…」と不気味ささえ感じるほど。「五百羅漢図」は信清にとっての代表作でもあり、制作に集中するために妻子も遠ざけたほどと言われています。作品への執着なのか、制作意図は不明ですが、細い筆で描かれた無数の漢字で浮かぶ仏に注目していただきたい。私の隣で観ていた外国の女性が小さく「Oh!Crazy…!」と言葉を漏らしていました。
未来の国宝をその眼
で
本展は8月31日まで開催。作品の写真撮影は一部のみとなっているので注意しましょう。期間中には好きな作品を投票できる”MY国宝を探せ!”企画が実施中で、投票すると日本美術の鉱脈展スペシャル画像がダウンロードできます。
この夏、日本美術の新時代が生まれる瞬間をぜひ観ていただきたい。
展覧会名:「未来の国宝を探せ!日本美術の鉱脈展」
会期:2025年6月21日~8月31日
会場:大阪中之島美術館
所在地:大阪府大阪市北区中之島4-3-1
ライター:石倉佳奈
広告代理店で6年間営業マンとして勤務したのち、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在は美術館で看視員をしながらフリーランスライターとして活動中。国内の美術館を全制覇するのが夢。
