つい先日、自宅のデスクチェアでなんとなくTreadsを見ていたときに、ある投稿が目に留まった。
「浮世絵をこんな風にするなんて。こんなの技術力を見せつけたいだけのエンジニアとか金儲けを企む企業がアートを利用しているだけにしか見えない。浮世絵は実際のものを見てなんぼなんだよ。人間の想像力なめんな。」
おおよそこんな内容の投稿だったのだが、これに対して数多くの共感のコメントが寄せられていたのも印象的だった。(ちなみに投稿者はフォロワー100人未満のおそらく一般人)この投稿は1月17日(土)から始まった「動き出す浮世絵展」についての投稿者自身の私見だ。
このようなデジタルアートを使った現代アートや最新の3DCG映像技術を駆使した没入体験型展覧会は昨今のブームだ。そんなにアンチが湧くとは個人的には少し驚いた。だからこそ、自分の目で”体験”し、確かめてみる必要があると考える。
デジタルアートは「映え」だけが価値なのか
たしかにデジタルアートはいかにも最先端で現代的だ。新鋭・華やか・秀美・お洒落・映えなどの言葉が似合っていて、SNSとも相性が良さそうだ。実際、展覧会では写真・動画撮影は全てOKで、SNSへの投稿に関しては推奨しているぐらいだった。
最新の3DCGアニメーションやプロジェクションマッピングを駆使したという本展は、大人から子どもまで、何よりアートに詳しくない人でも十分に楽しめるというのがコンセプトのひとつでもある。このコンセプトこそ、日本美術に造詣の深いアートファンからすると「せっかくの日本最高峰の美術様式である浮世絵がビジネス目的で利用されている」と憤慨してしまう原因に繋がってしまうのかもしれない。
浮世絵の魅力と人間の想像力の果て
本展は「藍」「眺」「麗」「彩」「豪」「滝」「雅」といった7つの異なるテーマで映像空間が展開されている。「滝」以外は各部屋に、テーマに適した”静止画”の作品も解説付きで展示され、描かれた作品の時代背景や、作者の特長・個性も十分に理解できるものだった。
たしかに、実際の”止まっている”浮世絵を見て、想像を膨らますのも鑑賞の醍醐味だろう。しかし個人的には、作者の目になれる体験が本展の魅力のひとつなのではないかと思う。
「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を見た葛飾北斎(1760ー1849)はこんな風に波を見ていたのかもしれない。寛政の三美人と評判だった女たちを描いた喜多川歌麿(1753ー1806)は彼女たちの眼差しにドキドキしながら「三婦艶」を描いたのかもしれない。そんな風に彼らに思いを馳せるのもアートを楽しんでいるといえるのではないだろうか。
最新映像技術と歴史の融合はこれからどう進
む?
このような技術進歩はおそらく止まらないだろう。むしろAI技術の推進は加速していく一方だろうし、システムの技術革新も数年以内には、今の我々の想像もしなかったところまで深化していくことが予想できる。
美術業界においても、こういった技術は作品の修復や発見にも利用されている。決して商業的な利用だけが目的でないのは明らかだ。没入体験型展覧会のブームが去っても、また新しい技術を応用した作品や展覧会が生まれるなら楽しみだ。ただ昨今では、アナログへの価値の高さが見直され、再評価されている傾向にもある。
最新技術と古来の技術は活かす・壊すではなく、上手に融合していって欲しいと思う。
展覧会名:動き出す浮世絵展
会期:2026年1月17日~3月14日
会場:グランフロント大阪ナレッジキャピタル
ライター:石倉佳奈
広告代理店で6年間営業マンとして勤務したのち、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在は美術館で看視員をしながらフリーランスライターとして活動中。国内の美術館を全制覇するのが夢。
