たまたま行きつけの、流行りの本なんて滅多に置かれてないはずの大学図書館で何故か見つけた1冊を、気になったので借りてみました。
それが『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
2023年に映画が大ヒットした記憶もまだ新しいかと思います。
言わずと知れた、特攻兵と現代の女の子とのタイムスリップ&恋と戦争の物語です。
(せっかくなので映画も観てみました)
びっくりしたのは主人公がまだ中学2年生だったこと。高校生くらいかと思っていました(映画版では高校生でしたが)。父が誰かもわからないシングルマザー育ちで、何もかもにイライラするようなお年頃の主人公の百合。母親と喧嘩して家を飛び出して、家の近所にある防空壕で一晩を越そうと眠ったところ、70年前の戦時中の日本にタイムスリップしてしまう、というのが物語の冒頭部分です。
そこにたまたま通りかかった佐久間彰という親切な兵隊さんが助けてくれて、何とか事なきを得て、彼のよく行く陸軍の食堂にお世話になるんですが、この彰と(いつも一緒に食堂にやってくる)愉快な仲間達が特攻兵だということを知り………というのがおおまかな話の流れになります。
「普通に歴史の知識はある(つまり特攻はわかる)」
「貰ったモンペがうちの学校の芋ジャージよりダサい」(女子中学生ならではの感想ですね!)
「キャラメルは『軍粮精』という(気になったので調べてみたら厳密にはキャラメルよりはカロリーメイトに近い?軍用の甘味らしいですね)」
「真夏だけど冷たい水が出てこない」(主人公が冷蔵庫の恩恵をしみじみ感じるシーンですが、映画版は井戸があったので何とかなっていると信じましょう)
「戦時中なので扇風機が壊れても買い直せなくて困ってるらしい」(そんなことあるんだ、と目ウロコでした。映画版では言及はないけどやたらうちわが出てくるので、きっと壊れたままなのでしょう)
「この時代でやっと出来た唯一の友達が、昔の可愛いお洋服を肌着にしてこっそり着てる」(映画版だと『婦人会(愛国婦人会ですね)に見つかったらめちゃくちゃ怒られるので内緒』とのこと。ぜいたくどころかカワイイも許されない時代だったのです)
とか『なるほど』が意外と多いです。
きちんと調べて書かれているなあ、と思いました。
思いのほか、恋愛パートが少なめでこういう戦時中の日常パートの方が印象的に書かれている、そんな印象さえ受けます。何せ百合は中2で彰は20歳(彼には同じ歳の妹もいる)なので、まあそうなるよね……といった感じです。
そして主人公の百合は中学2年生の現代女子です。特攻なんて納得がいくわけもなく、『寂しくないの?』『なんで行くの?』と皆に容赦なく聞いていきます。主人公がもしも大人の女性だったら、気を遣って聞けなかったことかもしれませんね。これが令和に読み継がれる(初版は2018年、つまり平成28年なんですが)現代っ子が主役の戦争小説の強みだな………としみじみしました。
もちろんこの手の戦争モノではほぼある「日本は戦争に負けるよ」からの「なんだと貴様!」な『憲兵さんとの衝突シーン』もあります。そして空襲に巻き込まれて命からがら逃げ延びるシーンもあります。
原作の方では、普通に現代ではマクドナルドやスターバックスを使ってた女子中学生が戦時中の日本に来てアメリカ軍に殺されかけるわけなので「狂ってるよ……」と呟くシーンが印象的です。
ちなみに映画版では父親を事故(赤の他人を助けて死亡)で亡くしていて『誰かのために死ぬこと』の意味合いと主人公のトラウマがより深くなっている模様。あと恋愛が成立する年齢に引き上げられてていて(その分恋愛パートが増えるのですが!)、原作では『女子中学生と20歳男子』という壁があったところをうまいことなんとかしています。
ちょいちょい歴史考証的な細かい部分の作りが甘い気がしたけど(まあ虚実入り乱れて書かれているお話なので、そんなものなのかもしれません)、原作も映画も若い世代を引き込むには十分のクオリティなのではないか、と思います。
ミリタリーが好きな人とかこの時代の戦記文学をよく読む人には多少物足りないかもしれませんが、そういったものとは無縁の一般的な層の人々にはとても良い作品なのではと思います。
映画も大体そんな感じですが、私はなんとなく『戦時中の空気感』がきちんと描かれてる気がする原作の方が好きです。
なお原作ではその後の話や、登場人物の掘り下げなどもある『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。Another』という外伝集や、特攻兵として散っていった彰の生まれ変わり(!)が主人公の続編『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』(こちらも映画化するようです)もあります。
私の頃(昭和後期生まれ平成初期から中期育ち)ではまだ、エンタメの世界からこういう作品が生まれてくる土壌がなく、戦争と言えば怖くて暗くて恐ろしく、二度と繰り返してはならないもの、という作品が多かった印象です。
それがまさかスターツ出版(私の世代では『恋空』で一世を風靡したあの恋愛専門出版社というイメージでした)から戦争を、それも特攻を題材にした小説が出てくるとは! という驚きたるや!
作者の方もまた、高校の先生をしていた時に、今の高校生が戦争も特攻もあまり知らないことに衝撃を受けて、若い世代への『継承』のために書いたとのこと。
少しでも知ってもらいたい、という目的は十二分に果たせていると思います。こういう作品から歴史を知っていくのも、一つの方法として大いにありだと個人的には思います。
辛く重い歴史を、作中で百合と彰が食べていたかき氷のように、少しの甘味に混ぜて溶かして、でもしっかりと味がする。そんな1冊および外伝や続編。
『それにしたって、もっと良い戦争文学や戦争映画はあるぞ!』という意見もきっとあると思います。けれどこの作品はそういった『良い戦争文学・映画を積極的に読んだり観に行く人達』とは決して被らない層のためにしっかりと書かれているなあ、という印象も大いに受けました。
戦争への考えは人それぞれです。けれど、風化してしまえばどんな思いも馳せられなくなります。そこに新たに植えられたまだ瑞々しい防風林のようなこの1冊。機会があれば是非読んでみてくださいね。
@akinona

