先日NHK朝ドラ『あんぱん』を観ていたら、主人公の嵩(後のやなせたかしのモデルですね。今回の記事は他にも色んな大先生が出てきますが敬称は省略させて頂きますね)が読んでいた漫画が我が家にもありました。
数年前に亡くなった私の義父(戦中世代)が時々買っていたという復刻版の少年少女漫画本。有名どころでは『のらくろ』や『冒険ダン吉』などが家の本棚にぽこぽこと紛れ込んでいる我が家。そんな義父が買っていた、以前戦後日本で大ブームになった「少年ケニヤ」は当サイトでもご紹介したことがあります。(記事はこちらから読むことが出来ます)
そして今回ご紹介するのは、その名も『タンク・タンクロー』。戦前の子ども達のヒーローです。
日本初のロボットヒーローとも呼ばれているこのタンクロー、穴が8つ空いた丸い金属製の身体からは首や手足だけでなく、タイヤやスクリュー、飛行機の翼、削岩機、日本刀や機銃まで自由自在に取り出せてしまいます。(まるでドラえもんの四次元ポケットですね!)
ちなみにこの摩訶不思議な身体の中がどういう仕組みになっているのかは、結局最終話になっても明かされませんでした。
丸顔でちょんまげの愛嬌のある顔、相棒にはちょっとおとぼけの猿のキー公を連れて、バケモノや泥棒、そしてライバルの悪党クロカブト(これがちょっとSTAR WARSのダース・ベイダーに似ているという説まであるそうです!)の軍団と丁々発止の戦いを繰り広げる(アンパンマンとばいきんまんの間柄になんとなく似ている気がします)愉快なスーパーマン(?)ことタンクローは、昭和7年(1932年)から戦争中まで、小学3、4年生へ向けた雑誌『幼年倶楽部』で連載されていました。
当時の少年少女は『のらくろ』などと一緒にこの『タンク・タンクロー』の突飛で奇想天外な大冒険を読んでは心を躍らせていたことでしょう。
作者は阪本牙城。あまりにも奇想天外なタンクローの常識外れな発想と冒険は、時には編集者にセーブをかけられそうになったとのことですが、この作者の阪本氏は自分の考えを貫き通して、最後まで奇想天外な動きや発想を変えることはなかったそうです。
それもあってか読者人気もぐんぐん高まって、少年少女達からの熱狂的な歓迎を受けたとのことです。
漫画の神様こと手塚治虫も幼年倶楽部を購読していたとのことなので、きっと目にしたことがあったでしょう。このタンクローこそ、かの『鉄腕アトム』の元祖でもある、という説(?)もあるくらいです。
有名なあの『11ぴきのねこ』の作者である絵本作家の馬場のぼるも、幼い頃のスケッチブックにはこのタンクローが描かれていました(展覧会で実際に観てきました)
小説家の大江健三郎や、SF作家として著名な小松左京などもこの漫画の愛読者だったとのこと。
このように、戦前の子ども達に大きな影響を与えた本作ですが、戦争が始まって軍国主義的な時代になると、打ち切りということになってしまいました。
そして作者の阪本牙城は満州(現在の中国東北部)に渡り、満州国政府の開拓総局の広報担当嘱託で「義勇隊漫画部隊」を結成し、その部隊長となりました。タンクローは満州新聞でも連載されていたそうです。
しかしながら、中国大陸の大自然に触れて感銘を受けたり、満州から日本へ引き上げる際には筆舌に尽くしがたい大変な苦難があったりもして人生観が一変、戦後は漫画家としての筆を折ってしまい、南画、すなわち水墨画家に転向するのです。
戦争に行って生還し、そしてなお人々にエンタテインメントを与え続けるような漫画を描き続ける、というのはきっと、すさまじい運と努力と巡り合わせが必要なのでしょう。
もしも漫画家を続けていたならば、今でも『タンク・タンクロー』の知名度ももう少し高かったかもしれませんね(アニメ化するという話もあったらしいのですが頓挫してしまったとか。キャラクター設定はなんと藤子不二雄Aだったとのこと! 観てみたかったものです……)
ちなみにNHKで放送されていた「おかあさんといっしょ」にはかつて、ほぼ内容は無関係ですがタイトルだけ文字った『パンツぱんくろう』というコーナーがありました。タイトルの元ネタが戦前のこんなにも愉快なSFギャグ漫画だと知っていた人は、どのくらいいたのでしょう!
何でも出来る万能人間、という子ども達の夢を画面いっぱい縦横無尽に、そして無邪気に走らせ、後の様々なジャンルの大作家達にも影響を与えたSFギャグ漫画の元祖にして冒険活劇漫画本。今では電子書籍で復刊されています。
今でもまだまだ古びることなく読むことが出来ます。楽しくてゆかいなSFギャグ漫画、戦前の子ども達を喜ばせ、そして多くの子ども達を各界の大作家への道へ誘う一因ともなったこの『タンク・タンクロー』。
機会があったら是非一度、お手にとってみてください。
@akinona