私にとって大切なのは、何人がそれを気に入るかではなく、誰がそれを気に入るかなのだ

· アート


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大阪・堂島リバーフォーラムで開催中の「クリムト・アライブ 大阪展」は、19世紀末ウィーンの画家グスタフ・クリムトの世界を映像・音楽・香りを組み合わせた没入型の展覧会だ。

クリムトの代名詞でもある”黄金様式”の「接吻」(1907~1908年)などの名作が巨大スクリーンに360°で投影され、クラシック音楽とともに楽しめる。彼が残した言葉と、彼の半生、そして彼が最も愛したと言われるエミーリエの美しい姿を堪能してきたので記録に残そうと思う。

クリムトと女たち

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クリムトの作品において、女性は単なるモデルではなく、主題そのものだ。母性・官能・死・生といった人間の根源的なテーマは、すべて女性像を通して描かれている。本展で映し出される女性たちは、柔らかな肌と装飾的な衣装に包まれながらも、どこか強い視線を放ち、観る者を圧倒する。

その背景には、エミーリエ・フレーゲをはじめとする、クリムトの身近にいた女性たちの存在がある。彼女たちは創作のインスピレーション源であり、同時にウィーン近代社会における「新しい女性像」を象徴する存在でもあった。映像空間の中で女性たちが反復的に現れる演出は、クリムトが生涯追い求めた女性美の執念を可視化している

クリムトとジャポニズ

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19世紀末のヨーロッパを席巻したジャポニズムは、クリムトの表現にも大きな影響を与えた。平面的な構図、輪郭線の強調、文様としての自然表現など、日本美術の特徴は、彼の作品の随所に見て取れる。

本展では、金色の画面に浮かぶ幾何学模様や植物文様が、映像として動き出すことで、より鮮明にその影響を感じさせる。奥行きを排した構成は、遠近法からの解放を意味し、絵画を「装飾芸術」へと押し広げた。スクリーン一面に広がる模様のリズムは、まるで琳派の屏風絵を思わせ、クリムトが東洋美術に見出した美意識の共鳴を体感的に伝えている。

クリムトの半生と黄金

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クリムトは1862年に生まれ、装飾画家としてキャリアをスタートさせた後、ウィーン分離派の中心人物として活躍した。国家や社会からの批判を受けながらも、独自の表現を貫いた彼が到達したのが「黄金様式」である。金箔を用いたこの様式は、宗教画の伝統と世俗的な官能性を融合させ、絵画を崇高な象徴へと昇華させた。本展では、黄金がきらめきながら画面を覆い尽くし、時間の感覚を失わせる演出がなされている。クリムトの半生とともに黄金様式の成立過程を追体験することで、なぜ彼の作品が「永遠の美」として語り継がれるのか、その理由が静かに理解されるのである。

クリムトは風景画も描い

いた

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クリムトの意外なところは”風景画”も描いていたことだ。クリムト作品は官能的な女性像で知られる一方、じつは風景画も数多く残っている。夏の長期滞在先であった湖畔や森を描いた作品群は、人物を一切登場させず、自然そのものを主題としている点が特徴だ。

画面は細密な筆致で埋め尽くされ、木々や水面は装飾的なパターンとして処理されている。そこには静謐さと同時に、時間が停止したかのような緊張感が漂う。本展の映像では、こうした風景画がゆっくりと動き出し、クリムトが自然に向けたまなざし──人間の欲望から解き放たれた、純粋な視覚体験──を改めて浮かび上がらせている

まとめ

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筆者が好きなのは彼の作品自体よりも、彼の生き方だ。愛した者をひたすらに描く、誰かに認めてほしい、名誉が欲しいというよりも「描きたいから描く」。その姿勢に憧れるのだ。

多くの人に評価されるかどうかより、誰に認めてもらえるかが極めて大切なのか、その心意気はきっとマイノリティであるが、その”誰か”に熱烈に愛される姿勢でもあだろう。


展覧会名:クリムト・アライブ

会期:2025年12月5日~2026年3月1日

会場:堂島リバーフォーラム

公式ホームページ:大阪展|クリムト・アライブ

ライター:石倉佳奈

広告代理店で6年間営業マンとして勤務したのち、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在は美術館で看視員をしながらフリーランスライターとして活動中。国内の美術館を全制覇するのが夢。