生誕150年記念 上村松園展

· アート
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上村松園の理想の女性になりたい

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日本画に興味のある人にはぜひ訪れてほしい回顧展が大阪中之島美術館で開催中です。3月29日(土)から始まった「生誕150年記念 上村松園」では、松園が築いた日本の近代美術の歴史を顧みながら、気品ある麗しい美人画の数々を展示中です。息を吞むほどの繊細で華美な松園の世界を味わえます。

日本における美人画の第一人者として知られる上村松園の誕生から150年の節目を記念した本展では、重要文化財の《母子》や《序の舞》などの代表作のほか、60年の画業の中で残された100作品もの優品が鑑賞できます。

日本の女性芸術家のパイオニア

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京都の葉茶屋「ちきり屋」の次女として生まれた上村松園(1875ー1949/明治8年ー昭和24年)は、幼い頃から画の才能を発揮していました。1887年に京都府画学校(現:京都市立芸術大学)に入学するも、やりたかった画法がすぐには学べず、物足りない思いをしていたのだとか。その様子を見ていた鈴木松年が直接指導し、15歳の時に初めて作品を出展すると、作品の素晴らしさが大きな話題になりました。その後、師・鈴木松年から雅号として「松園」を用いて本格的に画家として着実にキャリアを築きました。松年のほかにも、幸野楳嶺や竹内栖鳳に師事し、1948年、74歳の時に女性では初となる文化勲章を受章。日本における女性芸術家のパイオニアといえる存在です。

また、彼女のことで切り離せないのが、母との関係性でしょう。「家のことはやらなくていいから」と母親がせっせと働き、自由に絵を描かせてくれた家庭環境があったおかげと松園は語ります。

また、火災事故により自宅に保管していた作品が消失したときも、松園よりも悲しんだのが母親だったというエピソードもあり、母子の強い絆が感じられます。

4つの章から見る松園が目指した女性像

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一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香り高い珠玉のような絵こそ私の念願とするところのものである。(「棲霞軒雑記」『青眉抄』より)

松園が目指した”理想像”は4つの章から読み解けるでしょう。

【第1章:人生を描く】では当時の日本の女性が、10代・20代・30代・40代…とそれぞれの年代で迎える大きなライフイベントを髪型や着物を描き分けて表現しています。ちなみに重要文化財《母子》はこの第一章で観ることができます。

【第2章:季節を描く】では、日本らしい四季折々の趣と女性の着物の色や素材感に着目。

【第3章:古典を描く】では、古典芸能や古典文学などの伝統をテーマに描かれた作品が並びます。重要文化財《序の舞》もこちらの章で展示されています。

【第4章:暮らしを描く】は、所謂”女性の働く姿”が描かれています。舞妓・芸妓や、家仕事をする実直な姿や行事を楽しむ様子が描かれ、凛とした日本女性が観られるでしょう。

松園は実の母の姿をこれらの女性に投影しているのでは?と筆者は感じるのです。娘のために働き、最善の環境を整え、時代に対抗しながらも自身を支えた母親の姿を”理想像”としたのではないでしょうか。

女性が花に例えられるのは松園の作品を見れば納得

松園の作品を見ていると、色と濃淡の使い方や使い分けが素晴らしいことに気付けます。女性たちが着ている着物に限らず、背景の花々や植物、かんざしなどの装飾品にも垣間見えます。

例え話ではありますが、少女漫画では重要なシーンや主要人物の登場シーンなどの背景にはたくさんの花が華やかに描かれています。そのコマが物語においてポイントとなる演出と考えられますが、松園の作品にも共通したものを感じるのです。

女性の美しさはよく花に例えられますが、もしかしたら古来から共通する表現だったのかもしれない、なんて思いました。

メロンソーダのような淡く優しい緑色

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色味の使い方で印象的だったのはメロンソーダのような淡く優しい緑色。《新蛍》(1944/昭和19年)は赤の帯と優しいメロンソーダ色が絶妙なバランスの艶やかな衣装にくぎ付けになりました。芸者の彼女と1匹の蛍が遊んでいるような様子の作品です。

透けがたまらない確定演出

松園の作品でぜひ注目してほしいのが”透け演出”です。今春のトレンドのひとつでもある”透け”は松園も分かってたのではないかと思うほど、御簾や浴衣などの透け素材を上手に組み入れている作品が何点かあります。この透け演出がより色っぽく、情緒的な雰囲気を生み出しています。

それが分かる作品が撮影不可だったのが残念。読者にはぜひ、その眼で直接”確定演出”を見ていただきたい。

全体を通してみると、松園の作品は、艶やかで柔和。優しく品があって、派手というより鮮やかで、女性ならではの柔らかさと強さ・弱さを表現していると感じました。

来場者の中には着物を召した淑女たちの姿も見えました。夏のような暑さになる前に、着物をお持ちの方はぜひ着ていくこともお勧めです。

展覧会名:生誕150年記念「上村松園」

会期:2025年3月29日~6月1日

会場:大阪中之島美術館

所在地:大阪市北区中之島4₋3₋1

問い合わせ:大阪市総合コールセンター(TEL:06ー4301ー7285)

ライター:石倉佳奈

広告代理店で6年間営業マンとして勤務したのち、1年間日本全国の美術館をめぐるひとり旅へ。現在は美術館で看視員をしながらフリーランスライターとして活動中。国内の美術館を全制覇するのが夢。